第21話 看病

「ごめんね。かいせい」


「謝ることじゃないでしょ。気にしないで」


 家に帰ってきて早々に紫苑は謝ってきた。

 いつもより元気がないし覇気もない。

 いつもの紫苑を知ってるからこんな様子の紫苑を見ると不安になる。


「とりあえず、安静にしててくれ。何か食べたいものとかある?」


「ゼリー食べたい」


「わかった。買ってくるよ。他に何か欲しいものとかあるかな?」


「やっぱり待って」


 僕が買い物に行こうとすると腕を掴まれる。


「どうしたの?」


「いかないで」


 少し目を潤ませながら僕の手を掴んでくる紫苑。

 そんな表情で言われるとどこにも行けなくなる。


「一人にしないで」


「わかったよ。ずっとここにいる」


 ベッドに横たわっている紫苑の手を握る。

 やっぱり熱い。


「ありがと。かいせい」


「全然いいよ。でも、解熱剤だけ持ってくるね。すぐに戻ってくるから」


「、、、うん」


 すぐに解熱剤と水の入ったコップを持っていく。


「はいこれ。とりあえず飲んでくれ」


「うん」


 紫苑は僕から解熱剤とコップを受け取りそれを飲む。


「まあ、これで寝てたら治るのかな?」


「わかんないけど、てだけにぎってて」


「もちろんいいよ」


 紫苑に言われるままに手を握る。

 僕が手を握るだけでとても安心したような表情をするものだからこっちとしても安心する。


「今日はゆっくり休んでくれ」


「ありがと」


 それから少しすると規則正しい寝息が部屋をこだましていた。

 どうやら紫苑が寝たらしい。


「お休み紫苑」


 そういって僕は紫苑の部屋を後する。

 今のうちに買い物に行こうかと思ったけど今の紫苑を一人にするわけにはいかないため諦める。


「ん?」


 そんなことを考えていると突然スマホが震える。

 表示されているのはつい先日にも見たことがある電話番号。

 なんだかデジャブを感じてしまう。


「出てみるか」


 少し諦めを感じながら僕は電話に出る。


「もしもし~海君?」


 やっぱり海ちゃんだったか。

 番号を登録しておくか。


「もしもしどうしたの?」


「別に用があるというわけじゃないんだけど、海君の声が聞きたくなってさ~」


「そっか。嬉しいけどごめん。今は少し立て込んでてまた今度掛けなおしてもいいかな?」


「そうなの?何の用事?」


「それも今度。いやこれは面と向かって話すよ」


 流石に電話で恋人がいることを伝えるのはよろしくない。


「わかった~その日を楽しみにしてるね~」


「うん。またね」


 そういって通話を終了した。


「なんか、本当に申し訳ないんだよな~」


 そうは思いつつもやっぱり紫苑と離れる気にはなれないので正直に海ちゃんには話すことにしよう。

 そう決心する僕でした。




「ん?もうこんな時間か」


 気づけば時刻は12時

 病院から帰ってきて2時間以上が経過した。

 そろそろ何か食べ物を用意したほうがいいだろうか?

 確かりんごがあったし、お米もあるから小粥もできる。


「まずは紫苑の様子を見に行ってみるか」


 寝てたらとりあえずはそのままにしておこう。

 無理に起こすのも悪いしな。


「紫苑?大丈夫?」


 紫苑の部屋の中に入って声をかける。

 返答はない。

 寝ているのだろうか?

 ベッドを見ていると紫苑は寝息を立てて眠っていた。

 でも、なんだか表情が苦しそうだし息も荒い。


「熱が上がってきてるのか?」


 不安になって額を触るけど熱は上がっていなかった。

 一安心。



「なん、で。や、めてよ」


「え?」


 紫苑が苦しそうな表情で何かを呟いている。

 もしかしてうなされてるのか?


「おいていかないで。なんで、そんな、事、言う、の?」


「悪夢を見てるのか」


 内容的に誰かに置いていかれる夢か?


「、、、」


 そっと紫苑の手を握る。

 少しでも紫苑が安心できるように。


「ん、んふ」


 変な声を上げて紫苑は寝返りを打った。

 先ほどよりも表情はいくらか明るくなっているところを見ると悪夢は終わったのかもしれない。


「よかった。でも、熱がひいたら紫苑には問いたださないといけないことがあるな」


 紫苑が病院で診断を受けたときに先生は過労って言ってた。

 でも、僕が知る限り紫苑は早い時間に寝てたはず。

 今日紫苑の部屋に入ってみてわかったけど紫苑は生徒会の仕事を持ち帰って家でやってるみたいだった。

 多分、深夜までやってたんだろう。


「それに気づかないなんて全く僕はどうしようもないな」


 そんな自分が嫌になってしまうけどこんなことを考えるとまた紫苑に怒られそうなのでここまでにする。


「ん。あ?」


 紫苑はまたも奇声を発してから眼をあける。


「あれ?かいせい?どうしてわたしのへやにいるの~」


 寝ぼけているのか目をこすりながら紫苑は僕に問いをなげかけてきた。


「そろそろお昼だから何か食べるかなと思って聞きに来たんだけどうなされてたから手を握ってた」


「そうなんだ。ありがと~」


 心底安心したように紫苑はへにゃりと笑顔を浮かべる。


「で、何か食べたいものとかある?小粥とかすりおろしたリンゴとかならすぐにできるけど」


「じゃあ、おかゆもらってもいい?ちょっとおなかすいちゃった」


「了解。すぐに作ってくるから待っててね」


「ありがと」


 すぐに手を離してキッチンに向かいおかゆを作る。

 昔は茜がよく熱を出してたから小粥に関しては本当に作りなれてる。

 でも、人によって味の好みが違うからどうするか。


「まあ、とりあえず普通の小粥に梅干しでいいか」


 一番オーソドックスなものにしておかゆを作り始める。

 15分くらいで出来上がって飲み物とクスリと一緒にお盆にのせて持っていく。


「紫苑~出来たよ~」


「ありがとう」


 寝ころびながら紫苑がはにかんでくる。

 やっぱり可愛い。


「はい。小粥とお茶とクスリだよ」


「海星が食べさせて?」


「ん?」


「だから、海星が食べさせて」


 さっきよりも声に元気があるから少し安心ではあるけど、食べさせるっていわゆるあ~んという奴か?

 ハードルが高い。


「わかった、、、」


 でも、弱っている紫苑にこんなことを頼まれたら断れるわけがない。

 心を無にするんだ天乃海星!

 絶対に邪なことを考えるな!

 心の中で僕は自分を律して紫苑に小粥の乗ったスプーンを差し出す。


「あ~ん」


「んぐ。うん。おいしい!やっぱり海星の作るご飯はおいしいね!」


「そんなことないよ。小粥って誰が作ってもある程度美味しいから」


「違うもん!海星が作るからおいしいんだもん」


 紫苑は顔を近づけてそういってくる。

 ここまで褒められるとやっぱりうれしい。


「そっか。ありがと」


「うん!また食べさせて」


「はいはい」


 その後、小粥が無くなるまで僕は紫苑にあ~んをし続けるのだった。

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