第20話 熱あるじゃん

 翌日

 いつもより早い時間に目が覚めた僕はてきぱきと準備を始めた。

 服はもう決まってるし、持ち物は昨日のうちに確認したから特に準備するものは無いけれど。


「ふぅ」


 冷たい水で顔を洗えば少しもやがかかっていた思考がクリアになる。

 早い時間に起きたから今日の朝食は少し豪華にでもしようか?


 ガン


「なんだ?」


 そんなことを考えていると家の中から物音がした。


「紫苑はまだ寝てるはずだし、この家には僕と紫苑しかいないはず」


 頭をよぎるのは紫電さんの話。

 もしかして、紫苑の存在がばれたのか?

 それならこの家に襲撃があってもおかしくない。


「とりあえず、紫苑の部屋に急がないと」


 焦りを感じながらも足音を殺して紫苑の部屋に向かう。

 幸いその後物音は何もなく無事に紫苑の部屋にたどり着くことができた。


「紫苑入るよ」


 紫苑の部屋をノックしてすぐに部屋に入る。


「か、いせい?」


 そこにはなぜかベッドの下に転がっている紫苑がいた。

 いや、なんでベッドの下に転がってるの?


「紫苑?どうしたの?」


 いつもの紫苑とは違うような気がする。

 なんだか顔も赤いし寝起きにしても元気がなさすぎるような気がする。


「ん?」


 駈け寄って紫苑の額を触る。

 熱い。


「紫苑熱あるね」


 触った額はかなり熱く感じた。

 体感38度はありそうな気がする。


「え?そんなことないよ。だから水族館いこ?」


 上目づかいでそう言われるといってあげたくなるどさすがに熱のある紫苑を連れまわすわけにもいかない。


「だめだよ。今日は安静にしてないと。とりあえずタクシー呼ぶから病院に行こうか」


「や~だ水族館行くの~」


 胸倉をつかまれれぶんぶんと揺さぶられる。

 なんだか幼児退行している様で可愛い。

 あんまりこんな紫苑を見たことが無いから新鮮に感じる。


「だめだよ。とりあえず、保健所とか持っていくよ」


 いまの紫苑は何を言っても聞いてくれなそうだったからあきらめてタクシーに電話を入れて保健証とかも持つ。


「や~だ~」


 まだ駄々こねてる、、、

 このままではタクシーが来ても動いてくれそうになかったから僕は強硬手段に出ることにした。


「ちょっとごめんね」


「えっ!?」


 紫苑に断りを入れてから紫苑を抱きかかえる。

 所謂お姫様抱っこという奴だ。


「海星?」


「あれ?やっと話聞く気になってくれた?」


「なんで私お姫様抱っこされてるの?」


「熱が出てるのに水族館行くって言って紫苑が動かなかったから無理やり病院に連れてこうとしてた」


「えっ!?」


 目をぱちぱち瞬きして紫苑は素っ頓狂な声を上げる。

 どうやら今までの記憶がないらしい。

 ソンナコトアルンダー


「というわけで病院行くよ」


「うん。それより私重くない?」


「重くないよ。むしろ軽いくらい」


「海星は力持ちなんだね」


「そうでもないよ」


 実際紫苑はとても軽いと思う。

 でも、昔の僕がこんなに軽々しく紫苑を抱きかかえられたかと聞かれると難しい。

 一条さんの地獄の訓練に感謝だな。

 まあ、最近は週に一回しか行ってないけど。


「すいません。近くの病院までお願いします」


「わかりました」


 タクシーの運転手にそう声をかけて紫苑をのせる。

 僕も乗り込むとタクシーはすぐに走り出し病院に向かった。

 隣に座っている紫苑から伝わってくる体温は熱く呼吸も乱れているように思える。

 そこから数十分で病院にたどり着き紫苑は診察を受けていた。

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