第16話 いざ服を買いに!

「お待たせしました」


「全然待ってないよ。というか毎回このくだりしてない?」


「ええ。いつも私より海星のほうが早く来ているので」


「別に数分くらい気にしなくてもいいのに」


「そういうわけにはいきませんよ。それでは行きましょうか」


 こうしてみると紫苑は本当に完全無欠のように見える。

 誰に対しても敬語だし仕事は早くて勉強もできる。

 スポーツもできると来たもんだ。

 でも、そういえば生徒会の仕事っていつやってるんだろ?

 学校に残ってやってないし家でもそういう素振りは見ない。


「海星?どうかしましたか?」


「いや、何でもないよ。それじゃあ、行こうか」


 少し気にはなるものの今日は紫苑と一緒に服を買いに行く日だからそんなことは置いておくとしよう。


 いつものように紫苑の手を取る。

 紫苑も慣れてきたようで最初のように動揺したりはしていなかった。

 周りの目も最初のころのような神妙なものを見る目ではなくてなんだか呆れが半分以上含まれているような気がする。

 まあ、嫉妬や殺意の視線がかなり減ったのは僕としてはありがたい。


「早く行きましょう!海星!」


 紫苑は周囲の目があるにも関わらず少し素で話していた。

 紫苑も少し変わってきてるのかと思うと少し嬉しくなる。


「走ると転ぶよ~」


 言いながら僕も小走りで紫苑の歩幅に合わせる。

 最近トレーニングしているおかげで息切れとかは全然しなくなってきた。


「今日はここで服を見よう!」


 学校の人の目があまりないと判断したのか紫苑はいつものように話し始めた。

 やってきたのは駅前にあるショッピングモールだ。

 この中には大小さまざまな店舗が中に入っているためいろんなものが見れる。


「了解。どこか見る店とか決まってる?」


「う~ん。あんまり決まってないかな?服とかが置いてるお店の場所は覚えてるから適当に見て回ろ~」


「おっけ。じゃあ、行きますか」


 こういう大きな店で買い物をするのは結構久しぶりだからわくわくする。

 隣に紫苑がいるとなればなおさらだ。


「海星はどんな服が好きなの?」


「う~ん。動きやすい服かな?」


「なるほど。そういう基準で選んでたから地味な服なっかりになっちゃったんだね」


「まあ、はい」


 呆れられてしまった。

 でも、今までおしゃれをする機会なんてなかったしするとしても茜とどこかに行くときだけだった。


「じゃあ、好きな色は?」


「黒か白かな?シンプルなのが好きかも」


「白か黒か。無難な感じだね~」


「まあね。奇抜な服も嫌いじゃないけど当たり外れが大きいからさ。まあ、今回は紫苑が選んでくれるから心配してないけど」


 紫苑は見たことは無いけど私服もかなり可愛いと思う。

 これで私服がダサい落ちはやめてほしい。

 いや、マジで!

 でも、そんな紫苑も好きになれる自信はあるけどね。


「なるほど。あ!こんな服はどう?」


 紫苑が手に取ったのはシンプルな黒色のシャツだった。


「いいかも!」


 見た目は悪くないし触った感じの肌触りも悪くない。

 試着してみたら動きやすくなかなかにいい服だった。


「海星にあってるじゃん!」


「そうかな?」


「うん!いつもの海星もかっこいいけど今の海星もかっこいいと思うよ!」


「、、ありがと」


 真っすぐにほめられた経験が今まであんまりないからどうにも照れてしまう。

 いや、紫苑に褒められてるからかな。


「えっとじゃあ、こっちは?」


 紫苑が持ってきたのは半そでの白いパーカーだった。

 見た目は少し可愛い系で暑い時期にも着られるひんやり生地で出来ていた。


「どうかな?」


 試着室のカーテンを開けて紫苑に感想を聞く。


「すっごく良い!なんかいつもの海星は少しクールなかんじだけどそれ着てるとなんか可愛く見える!」


「それって褒められてるのか?」


「もちろん!私はそういう海星も好きだよ!」


「そっか」


 紫苑は目を輝かせながら僕を見つめてくる。

 こんなに正直に気持ちを伝えてくれるのがうれしい。

 でも、ちょっと恥ずかしい。


「じゃあ、この二着を買おうかな。ズボンはあるし」


「そう?もっと海星の選びたかったのに」


「それはまた次の機会ってことで。それより紫苑も服を見るんじゃなかったの?」


「あ!?そうだった。つい海星の服を選ぶのが楽しくて忘れてたよ」


 僕の服を選ぶのがそんなに楽しいんだろうか?

 そう思いはしたけど紫苑の顔を見れば聞くまでもなかった。


「次は紫苑の服を見に行こう。僕も紫苑がどんな服を着るのか気になるし」


「そうなの?別に私の着る服なんて普通だと思うんだけどなぁ~」


「そうかな?紫苑はどんな服を着ても似合うと思うよ」


「、、、そうかな?」


「そうだよ」


「ありがと」


 隣を見てみれば紫苑は耳まで真っ赤にしていて照れていることがうかがえる。

 学校ではほとんど表情を変えないのに僕の前だとコロコロ表情を変える紫苑が愛おしくてたまらない僕であった。

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