第11話 いっそこのまま
「痛い」
翌日目が覚めてすぐに自分の体の異変に気が付いた。
全身が痛い。
少し体を動かすだけで鋭い痛みが全身を襲う。
「昨日のあれが原因だよな」
思い出すのは昨日のランニングだ。
正直最初は余裕かと思ったけど、同じ空間をずっと走るのが精神的にきつすぎた。
体感時間10時間くらい走ってる気分だった。
「朝ごはん作って支度しないと」
身体は痛いけどだからといって学校を休むわけにはいかない。
意を決して起き上がって制服に着替える。
すぐに冷蔵庫をあけて朝食の準備をする。
出来たら紫苑を起こす。
ここ最近ずっと続けている朝の習慣だ。
「体調は大丈夫なの?」
朝食を食べながら紫苑にそう聞かれた。
どうやら昨日のことを気にしてくれているらしい。
「うん。大丈夫!ごめんね心配かけて」
「いや、海星が大丈夫ならいいんだけど」
「それより早くしないと遅刻するよ」
「あ!」
紫苑は急いで朝食を食べていた。
こういう少しお茶目なところも可愛い。
紫苑が食べ終わるのを確認して二人そろって家をでる。
「じゃあ、今日は私帰りに用事があるから海星は先に帰ってて~」
「わかった。何時くらいに帰って来る?」
「わかんない。何かあったら連絡するね!」
「わかった。気を付けてね」
「うん!じゃまた家で」
「うん」
紫苑に用事か。
珍しいな。
昨日は晩御飯作れなかったから今日はしっかり作って待ってよう。
◇
「なあ、天乃」
「どうした?古田」
「いやな、もう一ヶ月もたってるから聞きたいんだけどお前秋風さんと何があったんだ?」
「何がって別に大したことは無いぞ?」
「なわけないだろ?校門前で言い争ってるのも結構な人数が見てたし。それにお前最近あの生徒会長と付き合ったんだろ?何があったんだよ~」
「いや、別に。言うほどのことじゃないしお前に言ったらいろいろ広まりそうだから言わない」
こいつ、古田
だが、数少ない僕の話し相手であるためあまり邪険にはしないようにしてる。
「え~そこを何とか!絶対誰にも言わないから!」
「無理無理。お前そういって何位噂広めてんだよ全く」
「天乃のケチ!」
「なんとでも言え。僕はもう行くからな」
もう帰りのホームルームも終わってるのになんでこいつに絡まれないといけないんだよ。
勘弁してくれ。
「ちょっとま、」
僕は古田の声を無視して校門に向かった。
やはり一人でいるとかなりの視線を感じる。
勿論その視線は好意的なものではない。
全てがとは言わないけどほとんどが嫌悪や嫉妬だ。
こそこそ話も耳に入ってくる。
「あいつが生徒会長と付き合ってるってやつか」
「なんか冴えない感じだよね~」
「わかる!あんなのと一緒にいて楽しいのかね?」
「そもそも釣り合ってないしな~」
「絶対あんなのよりいい男いるよね~」
「付き合ってると不幸になりそう」
言われたい放題だ。
でも、否定はできない。
僕にはこれといった取り柄がないし冴えないっていうのもわかる。
釣り合ってないなんて僕が一番わかってる。
「はぁ」
家に急ごう。
こんなことを長く聞いてたら精神衛生上よろしくない。
◇
「あ!」
家に帰ってから2時間
晩御飯の準備の完成目前で僕はとあることに気づいた。
ソースがない!?
「不味いな。さすがにコロッケにソースが無いのは致命的だな。仕方ないから買いに行くしかないか」
かなりめんどくさいけど仕方がない。
流石にソースが無いのはだめだ。
「はぁ。ついてないな」
愚痴りながら僕は家をでて最寄りのスーパーに向かった。
「あれって、」
ソースを無事に買い終わって家に帰る途中ふと視界に見覚えのある人物が歩いていた。
「紫苑?」
今日は用事があるって言ってたけど終わったのかな?
なら一緒に帰ろうかな。
そう思って声をかけようとしたけどその後ろには見覚えのない男がいた。
顔立ちはとても整っていて紫苑と仲良さそうに話してる。
「、、、え?」
とっさに物陰に隠れてしまった。
でも、今のは紫苑だよな?
なんで男と一緒に?
しかもあんなに楽しそうに男と話して?
「落ち着け僕。紫苑が浮気するなんて考えられない。」
そうだよ、紫苑がそんなことするわけ
【そもそも釣り合ってないしな~】
【わかる!あんなのと一緒にいて楽しいのかね?】
【付き合ってると不幸になりそう】
するわけ、、、、
「僕に取り柄とかないもんな。それにあんなに楽しそうに話してるし。僕なんかよりもずっといいだろうな。釣り合っててお似合いだ」
点と点が線になっていくような感覚だった。
確かに僕と紫苑は釣り合ってない。
顔が特段良いわけでもないし勉強や運動で秀でてるわけでもない。
なんなら周りよりも少し劣っているくらいだろう。
そんな僕に紫苑が今まで付き合ってくれていたことのほうが奇跡みたいなもんだ。
「僕なんかといるよりきっと幸せになれるよな」
無意識にそんな言葉が口から零れ落ちた。
無意識が故の本音だった。
「これからどうしよ。家には帰れないし」
なんだか一か月前と似たような状況だなと思う。
「またあそこに行くか」
自然とその場所に向かって足が進む。
先ほどまで感じていた全身の痛みはもう感じない。
ただ、胸が痛かった。
◇
「ここに来るのも一ヶ月ぶりか」
公園のベンチに座りながら思う。
変わらない公園。
変わっているとしたら季節と雨が降っていないことくらいだろうか?
「また、一人になったな」
涙は出てこなかった。
なんだか、腑に落ちたという表現が正しいような気がする。
「これからどうしようか?」
いっそこのまま死んでしまうのも手かもしれない。
でも、わざわざそんなことしなくてもいつかは死ぬ。
なら急ぐ必要もないか。
「紫苑には幸せになってほしいな」
頭に浮かぶのはさっき見た光景。
楽しそうに笑う紫苑。
学校の奴らに言わせてみれば釣り合ってるというんだろうか?
彼のほうが紫苑を幸せにできそうだと思った。
少なくとも僕なんかと一緒にいるよりはよほどいい。
宿木を失った僕はこれからどうなるんだろうな。
どうでもいいか。
「なんか眠くなってきたな」
公園のベンチで寝るのはあまりよろしくないことだろうけどしょうがないか。
横になって目をつむる。
頭の中で繰り返されるのはさっき見た光景と茜に捨てられた時のことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます