第9話 化け物じみた精神力
「これは、」
地下室の扉の先はかなり広い空間が広がっていた。
勿論外で見た一軒家の広さよりも数倍は広かった。
「地下室です。我々の隠れ家の一つでもありますので他言は無用でお願いいたします」
「わかりました。それで、今日は何をするんですか?」
「はい。ボスからは天乃様を鍛えるように言われております。今日は何時ごろまでお時間がありますか?」
「8時には家に帰りたいので7時30分まででしょうか」
これ以上遅くなると紫苑に心配をかけてしまう。
それは良くないので必ず8時までには家に着くようにしている。
「承知しました。あ、申し遅れました私は一条と申します。これより天乃様の訓練をつけるようにボス、紫電様に命令されております」
「ご丁寧にありがとうございます。僕は天乃 海星と申します。これからよろしくお願いします」
マフィアの部下って聞いたからてっきり怖い人が待っているのかと思ったけどそんなことは無かった。
いや、怖くないっていうのは語弊があるかもしれない。
きっとこの人も人を殺した経験があるんだと思う。
マフィアとはそういうものだしそれを非難するつもりはないけど紫電さんと会わなかったらこんなことにも気づけなかったのかもしれない。
「はい。まずは基礎的な筋力を向上させましょう。そうですね。この壁からあっちの壁まで走って往復してください」
「一往復ですか?」
「まさか。そうですね。初日ですので500から行きましょう」
「え?」
500?
こっからあっちの壁まで20メートルくらいある。
良く地下にこんな空間を作ったと感心してたけどもしかしたらマフィアの新人育成施設なのかもしれない。
つまり、シャトルランみたいなことを500回?
「さあ行きますよ~」
「ちょっとま、」
「スタート」
僕が抗議の声を上げようとすると僕の声を遮って一条さんは開始を宣言した。
「はぁはぁ」
「ほらほらまだ150回ですよ~あと350回頑張りましょう!」
一条さんは僕の隣を走りながら声をかけてくる。
一条さんは僕と同じスピードで最初から並走しているけど息の一つも乱れていない。
きっと相当な時間体を鍛えていたのだろう。
僕と一条さんには圧倒的な身体能力の差があった。
◇
「ごほっ、ごほっ、」
咳が止まらない。
呼吸が全く安定しない。
視界もなんだかぼやけてきた。
「あと一回です。頑張りましょう!」
やっぱり一条さんは息を切らしていない。
それどころか汗すら出ていない。
「お疲れ様です。500回終わりましたよ」
「、、、、、」
「時間は、大体3時間かかりましたね。ちょうど7時30分なので今日はここまででにしましょう」
「は、、、い。ありがとうござ、、、いま、、、した」
しんどすぎる。
全身が痛い。
こんなにしんどい思いをしたのは初めてかもしれない。
「あ!シャワーはあちらの扉の先にありますのでお使いください。今日は車で送っていきますので」
「はい」
一条さんに教えてもらった扉の向こうにはシャワールームがありそこでささっと汗を流した。
シャワールームからでると替えの制服が置いてあった。
入手経路が気になる所ではあるけど絶対に気にしちゃいけない気がするのでそこは目を瞑ろう。
「お疲れ様です。では車でお送りいたしますのでこちらに」
「お願いします」
◇
「一条彼はどうだった?」
「はい。かなりすごいですね。ボスの言っていた通り新人連中よりすごい精神力です。心を折ることが目的の往復500回のランニングをやり遂げましたから」
「はっはっは。あれをやり遂げたのか?彼の精神力は本当に化け物じみてるな。あれを走り切れる人間はあまり多くない。体力的には余裕という奴もいるがあれは体力よりも精神的にきついからな」
「そうですね。私もあれを初めてで乗り切った人間は初めて見ましたよ。大体は20回ほどで精神がやられますからね」
「で、お前から見て彼はどうだった?もちろん精神力以外でな」
「そうですね。筋は悪くないと思います。身体能力は申し分ありません。彼は伸びますね」
「そうか。うちの教育官長がそういうなら間違いないだろうな。引き続き頼む」
「承りました。それよりもボス例の件は?」
「まだ心配いらない。だが、年中には起こるだろうな。そのつもりで準備しておいてくれ」
「承知しました。それでは失礼します」
「ああ。またな」
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