第6話 事実は小説よりも奇なり
「では、本題に入ろうか」
先ほどまでとは異なり少し声音を低くしてそういってきた。
「話は簡単だ。君は紫苑のことが本当に好きかい?」
「それはもちろん。紫苑は僕にとって世界で一番大切な唯一無二の存在です」
「それは君自身の命よりもかな?」
「はい。僕の命一つで紫苑が助けれるなら僕は喜んで差し出しますよ」
僕は本心からそう思っている。
そもそも、僕はあの時紫苑に拾われなかったら死んでいる。
彼女にもらった命なんだから僕はこの命を彼女のために使いたい。
僕が選ばれなくても紫苑が幸せになれるならそれでいい。
「即答か。やっぱり君は面白いな」
紫電さんはハンドルを握りながら豪快に笑った。
「うむ。経歴に問題はないし人格も良好。成績も優秀だし運動神経も悪くない。家事も完璧にこなせる少年を捕まえるとは紫苑もなかなかやるな。まあ、人間関係に多少難はあるが許容範囲だろう」
「は、はぁ」
なんだかいきなり褒められたけど喜んでいいのか?これ。
それに経歴ってことは僕の情報は全部調べられてるのか。
マフィア恐ろしい。
「確か、君は最近ジムに通い始めたらしいね。一体何でだい?」
「まさか、そんなことまで知ってるとは、」
「当たり前だよ。娘の彼氏の身辺を調べるくらい」
「まあ、何かあったときに紫苑を守れるようになりたいっていうのと紫苑にふさわしい男になりたかったからでしょうか?」
「なるほど。では提案なんだが私の部下の下で鍛えてみないか?」
「え?」
どういうことだ?
マフィアに弟子入りするってこと?
それ死んだりしない?
「もちろん死ぬようなことは無いし都合のいい時だけでいい。ジムで鍛えるよりかはよっぽどためになる。もちろん金などは要らない」
条件は破格だ。
筋肉もつくだろうしある程度の護身術くらいならば教えてもらえるかもしれない。
断る理由がない。
「お願いします!」
「そうか。受けてくれるか。ではこの紙に書いてある場所に都合のいい時に出向いてくれ。話はこちらから通しておくから心配する必要はない」
「わかりました」
「娘を頼んだよ。天乃君」
「はい」
紫電さんは本当に紫苑を愛してるんだなと思った。
何より紫苑のことを話す紫電さんの目はマフィアなんかじゃなくただの優しい父親にしか見えなかった。
「じゃあ、戻ろうか。くれぐれも紫苑には私たちの職業を言わないでくれよ?」
「えっ!?紫苑は知らないんですか?」
「ああ。あの子には裏の社会とは無関係な普通の女の子として幸せを掴んでほしいからね。それに、私たちに娘がいることは裏の人間には知られていない。もちろん今私たちがここにいることも知られていない。くれぐれも外部に漏らさないようにな」
「わかりました。僕も紫苑を危険な目に遭わせたくないので」
「それでいい。君みたいな男が紫苑のそばにいてくれることをうれしく思うぞ。あとこれ私の連絡先だ。緊急時にかけてきてくれ。力になる」
そういって紫電さんは胸ポケットから一枚の紙を取り出した。
「ありがとございます」
素直に受け取ってそれを財布の中にしまう。
この連絡先はとても貴重なものだから大事に保管しないとな。
「では帰ろうか。あんまり遅いと紫苑を心配させてしまう」
「ですね。運転お願いします」
「任せろ」
紫電さんはそういって家に向かって運転を始めた。
事実は小説より奇なりとは言うがまさかこんなことになるとは思ってもいなかった。
だが、こうなってしまったからには仕方がない。
紫苑を守れるというならそれでいい。
車に揺られながら僕はそう考えることにした。
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