第5話 危機一髪

 翌日

 9時ごろにインターホンが鳴った。


「ついに、」


「うん。多分お父さんとお母さんだね」


「ふう~緊張してきた」


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」


「そうか?でもやっぱり緊張するよ」


「じゃあ、玄関あけてくるね」


 紫苑はそういって玄関を開けに行った。

 服と髪はしっかりと整えたし何もおかしいところはないはず。


「連れてきたよ~」


 リビングに続く扉をあけて紫苑が入ってきた。

 その後ろから来たのはとてもきれいな女性ととても怖い顔をした男性だった。


「は、初めまして。紫苑さんとお付き合いをさせていただいている天乃 海星と申します」


「ご丁寧にどうも。私は紫苑の母の藤音 璃苑ふじね りおんです。紫苑と仲良くしてくれてありがとうございますね」


「いえ、紫苑さんにはいつも自分のほうがお世話になっているので」


「私は紫苑の父で藤音 紫電ふじね しでんという。いつも娘が世話になっている」


「いえ、そんなことは」


「なに謙遜することは無い。この家をみればわかる。君が家事全般をしてくれているのだろう?そうでなければ今頃この家はごみ屋敷になっていただろうからな」


「ちょっとお父さん酷い!確かに海星がやってくれてるけど、さすがにごみ屋敷にはなってなかったよ!」


 え?あれがごみ屋敷じゃない?

 あの時は相当ひどかったよな~

 紫苑の家に泊めてもらった翌日くらいだったか?

 あの時の家の状態はごみ屋敷だと思うんだけどな~


「それはそうとして天乃くん。少し私と話さないか?」


「はい!?」


「じゃあ、少し車で話そう。紫苑と璃苑はゆっくりしててくれ」


 え?車?

 もしかして僕ってこれから絞められたりするのかな?

 まあ、絞られる理由ならいくらでもある。

 年頃の娘と同棲してるって時点で殴られても文句は言えないもんな。


「じゃあ、行こうか天乃君」


「はい」


「行ってらっしゃいあなた、天乃君」


「気を付けてね二人とも~」


 二人そろって手を振って見送られてしまった。

 このまま僕は海に沈められるかもしれない。

 玄関を出るとかなり高そうな車が停まっていた。

 本当に紫苑のご両親は何者なんだ?


「さあ、行こうか」


「はい」


 促されるままに僕は助手席に乗り込む。

 するとすぐに車が音を出して進み始めた。


「天乃君は私がどんな職業か紫苑に聞いたことはあるかな?」


「いえ、紫苑さんからご両親の話はあまり聞いたことが無いです」


「そうか。じゃあ、天乃君は私の職業が何に見えるかな?」


 う~ん。

 顔を少し怖いけど所作や立ち振る舞いが上品に思える。

 どこかの会社の社長とかかな?


「会社の社長とかですか?」


「社長か。惜しいな」


 運転をしながら紫電さんはおかしそうに笑っている。


「違うんですか?」


「ああ、違う。私の職業はマフィアのボスだよ。それもまあまあ大きいところのね」


 え?マフィアのボス?

 なにかの冗談だろうか?

 紫苑からそんな話聞いたことないし。


「本当ですか?」


「もちろん。くだらない冗談は嫌いでね。証拠が欲しいというならこれでどうかな?」


 紫電さんはスーツの胸元から拳銃を取り出して銃口を僕に向けてきた。

 もう7月なのに何でスーツを着ているのかと思ったら拳銃を持っているからだったのか。

 このままじゃ殺される!?


「、、ん」


「ははは。そんなにおびえなくても君を殺したりしないよ。そんなことをしたら娘に恨まれてしまうからね」


「よ、よかった~」


「でも、これで信じてもらえたかな?」


「はい。それはもう」


「ならよかった」


 なんだか、少しお茶目な人だけどこの人がマフィアのボスなのか。

 それはそれで大丈夫なのか?


「君は紫苑と結婚を前提に付き合っていると考えてもいいのかな?」


「はい。そもそも結婚を前提としない付き合いなんて時間の無駄だと自分は考えています」


「そうか。珍しいな君みたいな考え方の学生は」


「そうでしょうか?」


 別に普通の考え方だと思ってるんだけどな。

 実際結婚する気もないのに付き合ってるカップルは何でそんなことをしてるんだろう?


「そうだとも。最近の学生は遊びで付き合うような連中が多いからな。本人たちがそれでいいなら構わないが紫苑と付き合っている君がそんな人間じゃなくてよかったよ」


 紫電さんは拳銃をしまいながらそういった。

 もしかして返答次第では僕死んでた!?


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