回想パート中は攻撃するなよ!絶対攻撃するなよ!

ちびまるフォイ

回想パートは読み飛ばし推奨

「ついにここまで来たか……!」


ダンジョンの最深部に待ち受けていたボスと相対する。


「これまでの道のりはけして平坦ではなかった。

 思えば、あれはまだ物心つく前の頃だったーー」


《中略》


「そして今、俺はここにいる!

 いくぞ! うぉおおおーー!!」


満を持して切りかかったが、

ボスのデコピン一つで戦闘不能になってしまった。


そして今、ギルドで飲んだくれているという状況に至る。


「はあ……あんなに修行したのに……」


冒険者にも残酷なほど才能の優劣はある。

低いレベルであっても強敵を倒せる人もいればその逆も。


自分とくれば明らかに上位なのに戦闘才能がないのか負けてしまう。


そんな自分と仲間になってくれる人はおろか、

ふてくされ飲み会に付き合ってくれる人もいない。


「くそぅ……どうすればみんなに必要としてもらえるんだ……」


自分には特別な力も才能もない。

あるとすれば長尺の自分語りができる程度。


自分探しの旅でもと思った矢先、尺の都合でアイデアがひらめいた。


「待てよ。思えば俺が回想しているとき、敵は攻撃しなかったな」


気づきを確信に変えるべくダンジョンへ再挑戦。

手近な敵に対して回想を話すとやっぱり攻撃は止まった。


「間違いない。俺が回想している間、敵は動けないんだ!」


これは大きな武器となる。

相手を一時的に行動不能にできるのだから。


きっとあらゆる冒険者で引っ張りだこになるだろう。


あとは回想パートを長くできるように訓練が必要だ。


そもそもギルドで仲間を募って挑戦するダンジョンには、

最深部に高耐久で時間のかかるボスが控えていることが多い。


いくら回想で相手の動きを止めるといっても、

仲間がパワーアップするわけじゃない。タコ殴りタイムを確保するだけ。


自分の回想が終わった時点で倒しきれていなければ、返り討ちになりかねない。


「もっと、もっと長い回想ができるようにならないと!」


詳細は省略されてしまったが、そこからは長く辛い修行が始まった。


回想といっても単に長話を続ければいいわけではない。

長く回想するには限りなく過去から回想しなければならない。


昔であればあるほど記憶は薄れてしまうところを、

より詳細に現代までの経緯に至る歩みを遅く、細かくする必要がある。


過去を思い出し、それを書き留めて、何度も反復する。


それはもうただの回想には収まらず、自分史というべき内容だった。


あくなき執念の果てに、どんな敵でも倒しきれる時間を確保するほどの回想スキルが身についた。

久しぶりに冒険者ギルドを訪れる。


「こんにちは、旅の皆々さま。

 どんな敵でも無抵抗な状態にさせられる

 優秀な仲間は必要じゃないですか?」


「なんだ。あんた拘束系の魔法が使えるのか?」


「ちっちっち。そんなものじゃないですよ。

 私のは好きなだけ攻撃も防御もさせない究極の拘束ができます」


「どんな敵でも、か?」

「どんな相手でも、です」


「お願いだ! うちのパーティに入ってくれ!!!」


これまでは臭いもののように避けられていた自分が、

こんなにも引っ張りだこにされる経験はない。


回想スキルを磨いて本当に良かった。


「かまいませんよ。さあ、ダンジョンへいきましょう!」


アタッカーだけの偏ったパーティを組んでダンジョンへ挑む。

その最深部にはまさに魔王と呼ぶべく圧倒的な力を持った相手が待っていた。


「頼んだぞ。お前の拘束だけが頼りだ」


「もちろんです。いきますよ……!」


ついに伝家の宝刀である「回想」が始まった。

たとえ相手が魔王だろうがなんだろうか、回想パートでは動けなくなった。



「そうあれはこの惑星が誕生するまでに戻るーー」



回想は過去であるほど、長く引っ張ることができる。



「そして人間は知性を持つようになりーー」



まずは自分に至るまでの誕生の歴史を話しきった。

通常の相手ならこのリードタイムで倒し切るだろう。


だが、相手は強敵。

自分語りを入れることでさらに時間を確保する。


「異世界転生なんて、まるで小説の話だと思っていた。

 それが現実になった瞬間、正直信じられなかった。

 何が起こったのかも、どうして自分がここにいるのかも、

 最初は全くわからなかった。

 気がついたら、青い空と広がる大地が目の前にあったんだ。

 見慣れた都会の景色なんてどこにもなかった。

 でも自分の体もなんだか軽くて、今までの自分とは違う感覚がしたんだ。


 元の世界では、平凡そのものの生活を送っていた。

 仕事をして、週末には趣味に没頭して……。

 家族や友達と適度な距離を保ちながら過ごす、そんな日々。

 特に不満があったわけじゃないけれど、

 これといった大きな目標や夢もなくて、

 なんとなく時間が流れていくような感じだったんだ。

 仕事だって特別成功したわけでもないし、

 ただ生活のためにやっていただけだった。

 だから、いつも心のどこかで"このままでいいのか?"と思っていた。

 でも特に行動を起こすこともなく、

 現状に甘んじていた自分がいた。

 突然こんな異世界に放り込まれるなんて、想像もしていなかった。


 異世界に来た最初の日は、

 何がどうなっているのか全くわからなかった。

 まるで映画のセットに迷い込んだような感じだった。

 言葉も違うし、目に見えるものも全部異質だった。

 

 巨大な城や、中世ヨーロッパ風の町並み、そして魔法の存在。

 最初はすべてがフィクションにしか思えなかったんだ。

 でも、ここでは魔法が日常の一部で、

 人々はそれを使って生活している。

 それを見て確信したんだ。"本当に別の世界に来たんだな"と。


 ただ、そう簡単には受け入れられない。

 元の世界では、友達や家族がいて、

 それなりの生活があったんだから。

 突然何もかも捨てて、この新しい世界で生きる。

 そんなこと考えただけでも不安が押し寄せてきた。

 でも、不思議なことにどこかで自分がこの状況を楽しんでいる部分もあったんだ。

 何か新しいことを始めるチャンスだとも思った。

 元の世界では手に入らなかった自由と冒険が、

 ここでは待っているかもしれない。


 この世界では「転生者」と呼ばれる存在が時折現れるらしい。

 自分もその一人になったらしい。

 転生者には特別な力が授けられることが多いと聞いたけど、

 自分には何の力があるのか最初は全くわからなかった。

 ただ、数日過ごしているうちに、

 その「スキル」が自然に発動する瞬間を体験したんだ。

 それは、危険な場面で何度か繰り返された。

 最初はただの偶然だと思っていたけれど、

 次第にそれが自分に備わった特別な能力だと気づき始めた。


 そのスキルは、「時間操作かいそう」とでも呼べるものだった。

 最初ほんの一瞬だけど、回想によって相手の攻撃を封じることができた。

 それによって、自分が危険を回避できる場面が何度もあった。

 このスキルのおかげで、普通の冒険者では到達できない領域に踏み込むことができた。

 初めてそれを発動したときの感覚は忘れられない。

 まるで時間が止まったかのようで……。

 まさか自分にそんな能力があるなんて、

 転生前の自分には想像もできなかったけど、

 これが新しい自分なんだって受け入れたんだ。


 転生してからは、ひとまず生き延びるために冒険者として活動を始めた。

 初めて出会った仲間たちは、みんな個性的。

 それぞれが自分の目標や夢を持っている。

 それを聞いているうちに、

 自然と自分もこの世界で何かを成し遂げたいという気持ちが芽生えてきたんだ。

 元の世界では、ただ平凡に生きていただけだったけど、

 ここでは何かもっと大きなことができるんじゃないかって思えるようになった。

 この世界では、自分がどれだけの力を持っているかが重要なんだ。

 そして、転生者としての特別なスキルがある以上、

 それを使って多くの人を救うことができるかもしれない。

 そんな期待が、自分の中でどんどん大きくなっていった。


 もちろん、すべてが順調だったわけじゃない。

 この世界には、想像以上に危険が潜んでいるし、敵対する勢力も多い。

 転生者だからといって、特別扱いされるわけじゃなく、

 自分の力を証明しなければならない場面がたくさんあった。

 何度も命を落としかけたし、失敗して悔しい思いをしたことも数え切れない。

 でも、その度に自分のスキルと経験を磨いて少しずつ強くなっていった。

 異世界に来た当初は、ただ生き残ることが目的だったけど、

 今ではこの世界で生き抜いて、

 そして自分の力を試してみたいと思うようになったんだ。


 今では、この世界での生活が少しずつ楽しくなってきた。

 冒険者としての名声も上がり、

 仲間たちと一緒に危険なクエストに挑む日々が続いている。

 戦いもあれば、新しい場所を発見する楽しさもある。

 この世界での生活は、決して平穏ではないけど、

 その分、毎日が刺激に満ちている。

 何が待ち受けているかわからない不安もあるけれど、

 それ以上に"これから先に何があるんだろう?"という期待感が強いんだ。


 元の世界に戻ることができるのか、それともここにずっと留まるのか。

 その答えはまだ見えていない。

 でも、もし戻れるとしても、今すぐには戻りたいとは思わない。

 なぜなら、この異世界でしか体験できないことがたくさんあるからだ。

 ここで得た経験や出会った仲間たちとの絆が、

 自分の中で大きな意味を持つようになっている。

 自分にとってこの世界がどんな場所になるのか、

 それはまだわからないけど、ひとつ確かなのは……。

 この異世界での冒険が、自分の新しい物語の始まりだということだ。


 これからも、どんな困難が待ち受けていようとも、

 異世界転生者としての自分を受け入れて、この世界で精一杯生きていくつもりだ。

 

 

 ……はぁ、はぁ、どうだ! だいぶ回想で時間をかせいだぞ!」


回想がついに終わる。

これだけの時間を確保すればどんな魔物も倒しきれるだろう。


目に入ったのは戦闘開始のまま無傷の敵と仲間たちだった。

そしてその目には強い憎悪の炎が燃えたぎっている。


「せっかく時間稼いだのに、なんで敵倒してないんだよ!」


自分のクレームに対して答えたのは、

敵と仲間たちの連携攻撃だった。




「お前の回想があったからだろーー!!」



よもや回想パートで動きが止まるのは

敵だけでないことを知る経緯はまた別の回想パートで話すことにしよう。

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