彼方よりの者

1

「な——————」

 信じがたい光景が目の前にあった。

 見上げる程の巨大な恐竜の化石が、地面からせり出し屹立していた。荒々しくも眩しかった数世紀。恐竜が栄華を極めた、燦然とした時代。その時代の巨大化石である。巨大竜が蠢く度に夥しい量の砂がザラザラと零れ落ちる。

「ヨらの星の技術だ。ヨらは、古代の化石を使役し、力に変えることができる」

 ジュラの声がはるか上空から聞こえる。首をもたげた竜の高さは優に10メートルを超える程だ。

「ふん、ならば、その図体のデカい飾りごと、地球を打ち砕いてくれるわ!!!」

 蛇の怪物が蓄えていたエネルギーが臨界を迎え、エネルギーの塊は黒い光を放つ。

「喰らえぇぇぇぇぇぇえええええええええええええ!!!」

 怪物が、巨大な光線を放つ。照準はもちろん巨大化石だ。光線は大気を震わせ、轟音とともにジュラに向かって直進する。

「お前らの好きにはさせないッッッッッ!!!」

 ジュラが叫ぶ。巨大恐竜はミシミシと音を立てながら体勢を変え、その大顎を開く。今度は化石全体が青白く発光し始め、竜の口内には小粒の太陽と見紛うかのような熱量の球体が精製されてゆく。

 そして、巨大化石も蛇の怪物に向かって光線を放つ。黒い光線と白い光線は空中て衝突し、凄まじい爆音を立てる。衝撃波が飛び、台風が直撃したかのような暴風が吹き荒れる。

「「うおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」

 二人の宇宙人の攻撃の勢いは拮抗していたが、次第に黒い光線の勢いが増し、白い光線の勢いが弱まってゆく。

「ぐ、うぉお………!」

「どうした! 古代の化石に頼っておいてその程度か! 無様だなぁ!!!」

 明らかにジュラが押されている。

「頑張れジュラ! そんな奴に負けるな!! 勝て!!!」

 僕は訳も分からずジュラに向かって叫ぶ。正直どんな事情でこんなことが起きているのか半分も理解できていなかった。しかし、少なくともジュラが地球の味方であり、蛇の怪物が敵であることくらいは分かっていた。そして、負ければ地球が滅びるということも。

 しかし、ジュラはどんどんと劣勢になってゆく。二者の中心で対立していた二本の光線は、今やジュラの目前で拮抗している状態だった。このままではジュラが負けてしまいそうだった。

「おとなしく敗れろ□□□□□! この星は我々の物だ!」

 怪物が叫ぶ。

「否! 違うな! ヨはこの星に住み、この星に生きる生き物を見た! 食った! 感じた! そして知った! この星は紛れもなくこの星に住む命達の物だ!!!」

 ジュラが僕を見下ろす。距離も離れているし、光線による逆光で姿は朧げにしか見えないのだが、不思議と僕と目が合っている感覚があった。

「ハクア! ハクアはヨが敷いた人払いの結界を無視して入って来たな! つまり、ヨらに関係のある成分を身体に持っているということだ!!!」

「お、おう!? そうなのか!?」

「ハクア、何故だか知らんが琥珀を持っておるな! 琥珀はヨらにとって活力の塊だ! ヨに向かって投げろ! このままでは負けてしまう!!!」

 言われて僕はハッとした。ズボンのポケットを探れば、ショーケースに入った小さな琥珀があった。昨夜ジュラが家出した際に、ジュラの機嫌を取ろうとして念のため携帯していたのだ。結局琥珀の出番が無かったために存在を忘れ、ポケットに入れっぱなしになっていたのだ。

「分かった投げるぞ! 絶対キャッチしろ!!!」

 僕は夢中になって琥珀を天に向けて放る。

「させるかぁ!!!」

 蛇の怪物が叫ぶと同時に、奴の身体から複数の蛇の頭が伸び、琥珀がジュラに到達するのを防ごうとする。しかし、ジュラは掌から鋭い光線を放ち、迫る蛇を打ち落としてゆく。

 琥珀は巨大化石の頭部まで到達する。ジュラは四本の指でしっかりと琥珀を捉えた。そして———


 ジュラは鋭い牙を閃かせ、琥珀を噛み砕いた。

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