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「—————————」

 瞬間、ジュラから猛烈な気が発せられる。ジュラの身体が巨大化石もろとも強烈に輝き、ジュラの瞳は青を通り越して紅く燃えていた。巨大化石が放つ光線も一際勢いを増し、怪物が放つ黒い光線を押し返してゆく。

「なにぃ!!!? こ、このような………!」

 蛇の怪物が呻く。

「いけぇジュラ!!!」

 ジュラが目を見開く。巨大化石の放つ光線は黒い光線を完全に押し返し、ついには蛇の怪物の身体も飲み込んでゆく。

「宇宙へ帰るがよい!!! この星にヨらの居場所は無い!!!」

「うごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 青い光が、一帯に満ちる。太陽の中にいるかのような光量の中で、僕の視界には何も映らない。

「ジュラー―――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!」

 僕は叫んだ。しかし、轟音の中で、ついには自分の声すら聞こえなくなった。





「お、目が覚めたか」

 僕がうっすらと目を開くと、ジュラの声が聞こえてきた。

「こ、ここは………」

 目を開けると、恐竜のようなジュラの顔がこちらを覗き込んでいた。その奥には巨大化石、さらにその奥には夜空。どうやら僕は仰向けに寝ていたようだった。

「ハクアは気を失っておったのだ。まぁ人間が耐えられる衝撃では無かったからな。仕方無い」

 僕はゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。そういえば山にいたんだった。山頂は荒れ果てているが、それだけだ。謎の発光は収まったし、蛇の怪物もいない。

「あいつは………倒したのか………?」

「うむ、ビームでどかーんとな、宇宙までぶっ飛ばしてやった。まぁ生きてはいるだろうが、もう地球を奪おうなどとは思わないはずだ」

「そうか………良かった………」

 僕は胸をなでおろした。どうやら、地球は救われたようだった。

「世界中に潜伏しているヨの同胞達も、どうやら勝利したようだ。あー良かった、地球守れたな!」

 ジュラは満足げに言う。太い尻尾がブンブンと振られる。

 夜空は、何事も無かったかのように静かだ。さっきまで、地球の命運を賭けた決戦が行われていたとは信じられない。

「そのぉ~、悪かったな、ハクア。色んなことを秘密にしていて」

 ジュラはバツが悪そうに言う。肉食獣の顔の癖に意外と表情があるな。

「言えなかったのだ。宇宙人が侵略に来るからそれを退けるために地球に来たなど………。信じてはもらえんかっただろうし、万一ハクアの口から誰かに洩れれば大騒ぎになってしまうのでな。それに、ハクアに正体を知られたと■■■■■が気づけば、ハクアを消しに来ていたかもしれん」

「………いいよ、それくらい。地球守ることに比べればな」

 ………

 暫しの沈黙。

「………実は、あやつらの言い分も分からぬ訳では無いのだ」

「え」

「ヨも、この星の人間の暮らしぶりには思うところがあったのでな。だから、■■■■■が地球を襲うとされている日よりも早く地球を訪れ、地球について学ぶことにしたのだ。守るに値するか否かをな」

「………」

 そんな目的があったのか。てっきり遊んでいるばかりだと思っていたが。

「しかし、わずかな期間であったがこの星で暮らし、ハクアと会い、いろんなことをするうちに確信した。この星はこの星の命達の物で、宇宙の者が手出しすべきではない、と———当たり前のことだがな」

「………そっか」

 ふと夜風が吹き、砂埃が舞い上げられる。同時に、巨大化石もカラカラと鳴る。

「先祖様の化石にも随分無理をさせてしまったな」

「どうするんだ? これ。こんなデカい化石を掘り起こして」

「心配せずとも、この化石はじきに消滅する。あやつを退けるのに化石の力を全て使ってしまったのでな。もうこの化石には微塵も力が残っておらん。あとは塵となって消えてしまうだけだ………数分足らずでな」

 ジュラは化石を見上げる。巨大化石は物言わないが、風がなびく度にサラサラと塵が舞い、存在が小さくなっていっているようだった。

「では、ヨもそろそろ帰るとするかな」

「え———」

 帰る?

「さっき言った通り、この星には宇宙の者が手を出すべきではない。ヨとて宇宙の者だ。この星に長く居座って影響を残すのは避けたいところである」

「そっ、か———そうだよな」

 ジュラは空を見上げると、大きな両翼をバサリと広げた。数回地上で羽ばたいたかと思えば、すぐにジュラの身体は宙に舞い上がる。

「ありがとう、ハクア。ヨを受け入れてくれて。ハクアが良いやつだったから、ヨは地球のことを好きになった。此度の経験を、ヨは永劫忘れないであろう」

「———ああ、僕も絶対忘れないよ」

ジュラはどんどん高く飛んで行き、ついには巨大化石をも超える。

「別れの時間も長く取れなくてすまない。またいつか、会える日があれば」

「ああ」

 ジュラが笑う。僕も笑う。

「ははは、さようならだ! ハクア! 琥珀うまかったぞ!」

「ジュラ! また会おう!」


 それは、一夏の邂逅。誰に話しても信じてもらえなさそうな、遥か彼方より来た異星人との接触。

 ジュラの姿が小さくなり、完全に闇に紛れて見えなくなっても、僕はずっと、夜空を見上げていた。

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