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「ヨらは初めは一つであった………。しかし、ヨらは次第に相容れなくなり、二つの種に分かれたのだ。ヨら□□□□□と」

「我ら、■■■■■の二派にな」

 どうやらジュラと相手は元は同じ種族だったようだ。

「じゃ、じゃあ、何でジュラとあの化物は、今更地球に来たんだよ。6600万年も経った今! 戦うにしたって、ここじゃなくても良いだろ!!」

「それは、貴様等のせいである。地球人」

「!?」

 答えたのはジュラではなく、蛇の化物だ。口が何処にあるか分からないが、頭に響くような嫌な声が、身体全体から聞こえてくる。

「我らは、地球を奪還しに来たのだよ。低能な人間共からな。元々この星は我らの物なのだから。そして、そこな□□□□□の若造は、これを阻止しようとしている訳だ」

「ハクア、あやつらの狙いは、地球の資源の搾取だ。それを是とするか非とするかでヨらは対立したのだ………!」

「地球の資源の、搾取?」

 蛇の怪物の目が一際怪しく輝く。

「そうだ。我々は長い時を経てようやく、現在の地球の様子を観測したのだ。地球はどうなっているのか。大絶滅から逃れた生命はいるのか。どのような恐竜が生きているかをな。しかし、我々の目に映ったのは、極めて絶望的な光景だったよ」

 怪物の身体に纏わりつく蛇が興奮したように蠢き始める。ジュラは僕を隠すように翼を広げる。

「我々が見たのは、人間共に破壊しつくされた無残な地球だった! あの時あった豊かな緑! 豊かな大地! 豊かな生態系! 豊かな空! 人間は全てを奪っていた! 緑は貪られ、大地は掘り返され、生物は絶滅し、空は汚い灰色に染め上げられた!」

 蛇の怪物は身体を震わせ、なお語り続ける。

「我々とて、地球を脱して良かったかもしれぬ………。もし残れば、人間に滅ぼされていたやもしれぬからな!」

 怪物の単眼が、こちらを睨んだ気がした。

「それだけではなく、人間共は今ある僅かに残った資源すらも奪い合い食い尽くそうとしている! ———それならば、我々がこの星の資源を接収して有効活用する方が良いよな!」

「なっ」

「今我ら49の仲間等がこの星の各地に降りたち、原住民を根絶やしにし、地球の岩盤を全て砕いて回収しようとしているところだ」

「安心しろ。それを阻止するのが、ヨとヨの49の同胞の同胞の使命だ」

 なんだか、地球はとんでもない抗争に巻き込まれているようだった。地球を滅ぼしにきた蛇と、それを守ろうとするジュラ。二種類の宇宙人の戦いだった。

「貴様等□□□□□はこの破壊され尽くした地球を見て何も思わんのか! 無残に破壊された我らの故郷を! この星は間もなく立ち行かなくなって破綻する! 星本来の寿命も待たずにな! それならばすべて回収して有効に活用すべきだ!!!」

「ヨらはこの星を既に明け渡したのだ! 新時代の地球の生命に! 太古の支配者は現代の情勢に未練がましく口出しすべきではない!!!」

「黙れ!!!ど の口で未練がましいなどと言う!!! 地球人に己を『JURA』となど呼ばせおって!!! 未練たらたらではないか!!! 無様だなぁ!!!」

 蛇の怪物が叫ぶと同時に、山が微振動を始める。空間一帯を覆う光は益々強くなり、地面からは砂や小石が浮き始めた。複数の蛇の頭が放射状に集まり、中心に何か得体の知れない黒い球状のエネルギーが精製されてゆく。黒い球はどんどん大きくなる。

「この砲撃により、地球の2%を破壊することができる。我等50の同胞が一度にこれを放つことにより、地球は崩壊するのだ………! 無様な地球人もろともなぁ!!!!!!」

「それをさせないためにヨらは来たのだ!!!」

 ジュラが吼える。ジュラからも爆発的なエネルギーが発せられ、僕はよろめく。ジュラの身体の文様が一段と強く発光する。

「座標取得! 地形検索! 時空切断! 階層転移! ハクア、もっともっと離れろ!」

 言われるがままに、僕は後ずさる。ジュラが叫ぶと同時に揺れはますます大きくなり、ジュラの足元の地盤が割れる。周囲一帯は地中で爆弾が炸裂したかのような衝撃に見舞われた。そして、粉砕された地面は轟音とともに盛り上がってゆく。

 まるで、地面の底から何かがせり上がってくるような———

「力を借りる、先祖様!!!」

 ジュラの叫びに呼応して、ついに地面から巨大な何かが表出する。頭が割れそうな轟音と振動とともに、砂嵐を巻き起こし、山肌を掘り返して、地上に現れたそれは

「「な—————————」」

 僕と蛇の怪物は、揃って絶句した。

 眼前に聳え立つのは、全長30メートルはあろうかという、超弩級な恐竜の化石。山の光を受けて不気味な赤色に輝く巨竜の頭骨の上に、ジュラは立っていた。

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