3
「探しに行くか………」
しばらくして動悸も収まった頃、僕は立ち上がった。外はもう完全に暗く、もうすぐ星が見えだす時間帯だ。あのとき、すぐにジュラを追いかけようとも思ったのだが、互いに頭に血が上っている状態で話し合っても喧嘩がこじれるだけだろうと思い、しばらく頭を冷やすことにしたのだ。きっとジュラもそうしているだろうと思って。
鞄から懐中電灯代わりの携帯を取り出し、外へ出る準備をする。
(一応、これも持っていくか)
僕は棚から琥珀の入った小さなショーケースを取り出し、ケースごとポケットに強引に捻じ込む。もしジュラが家に帰らないつもりなら、琥珀を差し出してでも気を収めてもらう覚悟だった。
「ん? これは………」
家から出たところで僕はあることに気づいた。街灯に照らされて、地面の上に何やら光るものが落ちている。
「これは………ジュラから出てる粉?」
かがんでよく見てみれば、最近ジュラの身体から出る白い粉のようだった。街灯の光を反射してキラキラと光っている。道の先を見やれば、点々と輝く粉が朧げな道標となっていた。
これならこの線を追うだけでジュラの元にたどり着ける。探すといっても場所のアテがほとんど無かったからこれはありがたい。この粉が何なのかは分からないが、僕はヘンゼルが如く、光る粉を辿りながら夜道を歩んだ。
*
「ここに着くのか………」
足元の輝きを辿りながら歩むこと数分。果たしてたどり着いたのはこの町を両断する河川の河原だった。以前、ジュラと二人でバドミントンをした場所だ。すっかり暗く、ちょっと先も見通せない。
街灯の無い場所では携帯のライトで道標を照らしながら進むと、光の跡は河を横断する巨大な鉄橋に僕を導いた。この橋は車も通るので横幅が広く、当然煌々と照明が道を照らしている。もっとも、こんな時間では車通りは無いが。
そして、ジュラがいた。橋の中腹程に。欄干に、河の方を向いて座っている。
照明に照らされたその横顔を見て、僕は一瞬立ち止まる。
ジュラの顔は赤黒く汚れていた。口元を中心に鼻や頬に至るまで。遠くから見れば、さながら大口を開けた口裂け女のような様相だ。さらに両腕の先も同じように着色されていた。目は爛々と開かれているが焦点が合っておらず、闇夜のどこかを眺めていた。
ジュラの足元の歩道には、大きな水たまり。こちらもどす黒い。見れば、魚の頭やヒレ、尾が三匹分程度浮かんでいた。胴は無い。強烈な照明を照り返すそれらは猟奇的で気持ち悪い。
僕はジュラに近づく。
「生魚は食うなと言ったろ」
「………」
ジュラは喋らない。こちらを見向きもしない。
「さっきのことは、悪かったよ。僕も言い過ぎた。ジュラには、ジュラの都合があるもんな」
「………」
「だから、もう帰ろう。互いに、もっと話せば分かり合えて、すれ違いも減るかもしれない」
「………」
「………」
「………ヨが何も言えぬのは、ハクアのためでもあるのだ」
「え?」
「ヨがこの星に来たのも、それでいて何も言えぬのも、全てこの星の者のためなのだ」
「ジュラ、それってどういう」
「これ以上は言えん。だが、これで納得してはくれないか。情報が洩れれば、ハクアはおろか、この町ごと危機に瀕するのだから」
「———」
ジュラは河側から振り返り、橋の歩道に降りる。
「迎え、感謝する。ヨも気が立っていた。だが今は大丈夫だ。帰ろう」
「おう」
そして僕と血まみれのジュラは夜道を並んで歩いて帰った。帰り道、僕らは一言も言葉を交わさなかった。
いや、一度だけ。黒い空に光が一筋流れた際
「ジュラ、今のは宇宙人か?」
「そうだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます