真相

1

(朝か………)

 覚醒した僕はゆっくりと布団から抜け出す。目が開かないので手探りでスマホを探し、起動すれば時計は8時を示していた。カーテンを閉めているので室内は暗いが、もうとっくに日は上っている。

 部屋の隅を見れば、ジュラはまだ眠っていた。最近、ジュラに起こされることが少ない。ジュラは僕よりずっと遅くまで寝ているようになった。昨夜は互いに消耗していたため早く寝てしまったので、ジュラはもう丸半日以上眠っている計算になる。

 僕がカーテンを開け、顔を洗い、歯を磨いた後でもジュラは眠っていたので、僕はジュラを起こすことにした。

「おい、ジュラ。もうすぐ9時になるぞ。いい加減起きた方が良い」

 声をかけても、ジュラは反応を示さない。寝息を立てているだけだ。

「ジュラ、お前、大丈夫か? 体調悪いのか?」

 たまらず僕はジュラを揺する。やはりジュラは起きない。

 代わりに、ジュラに触れた僕の手のひらには、例の粉が付着していた。

「こ、こんな量が………」

 粉の量は、触れた手のひらを真っ白に染めてしまうほどの量になっていた。ジュラの皮膚はもう粉だらけだ。

「ジュラ、どうなってんだ、これは———」

 僕が呆気に取られていると、丸まっていたジュラがもぞりと蠢いた。

「ジュラ」

 ジュラは目を閉じたままごそごそと身を震わせ———


 バキリ、と、ジュラの寝顔にヒビが入った。


「ひっ」

 僕は言葉を失う。ジュラの顔面、腕、脚、いたる部位に黒い亀裂が走ってゆく。ジュラはゆっくりと上体を起こし、その度に亀裂は深まり、体表から粉が落ちる。

 それだけではない。ついに亀裂が入った表皮が脱落してゆく。純白の皮膚の欠片はカラカラと音を立てて落下してゆく。

 あまりの現象に僕は何も言えずに見つめるしかない。とうとうジュラは立ち上がり、亀裂は全身に巡る。そして、

 ボディスーツを脱ぐかのように、背面に走った一際大きな亀裂から、ジュラが抜け出した。

「こ、れは………」

 脱皮だった。人間が行う行為ではないが、そうとしか形容できなかった。ジュラは、ジュラの形をした透明な殻を脱ぐ。そして最後に、亀裂が走った顔の皮を引きはがした。ジュラの顔を破り、出てくるのも当然ジュラの顔だ。ジュラはようやく開眼する。真っ青な双眸から見下ろされ、目と目が合う。

「おはよう、ハクア」

「お、おう、おはよう」

 新生したジュラは、肌がより白くなり、体表を這う水色の文様は空色に輝いていた。肌の質感も、思えばここ数日はザラザラとしてるように見えたが、今ではやはり陶器のようにすべらかになっている。流線形の体躯はもはや神々しさも感じる。

「いやはや、驚かせてしまった。脱皮には膨大な体力と神経を使うのでな。最近ヨがよく眠っていたのはこのためだ」

 ジュラは自分から剥がれ落ちた自分の顔の殻を持つ。同じ顔が二つ並んでいて見ていて気持ちが悪い。僕はすごいものを見てしまった気持ちで何も言えない。

「しかし、ヨらの身体は不思議よな。この姿は仮初の姿だというのに、脱皮はこの姿のままでも必要とは」

「———仮初って、前にもそんなことを言っていたが、お前の本来の姿ってどんなだ?」

 僕は問う。

「うむ。まぁ、何とも言い難いが、人間のものとは大きく違うということだ。そのうちハクアにも見せることがあるかもな。さて、部屋を散らかしてしまった。掃除をしようか」

 ジュラはかがんで自らの殻を拾い始める。その白い肌は陽光を受けて宝石のように輝いていた。

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