前兆
1
「あ、流れ星」
「本当だね」
道行く親子が夜空を見上げて言うのが聞こえ、僕も釣られて空を見上げる。青黒い夜空には確かに光線が瞬いて消えていた。
願いが叶うといいねなんて言ってる親子を速足で追い抜きつつ、僕は何とも言えない感情に支配される。
あれは、宇宙人だ。宇宙人なのだ。願いなど叶うはずもない。
重たい買い物の荷物を左から右に持ち替えつつ、僕は息を吐いた。レジ袋がガサリと鳴く。
ジュラから宇宙人の件を聞いて以来、僕は夜空をよく見るようになった。そりゃ宇宙人の存在なんて気になるから、当然のことだろう。しかし、最近はどうも夜空を通る宇宙人を目撃する頻度が高い気がする………。気のせいだろうか?
家に着く。鍵を開けると室内は暗い。同居人は既に眠ってしまったようだった。起こさないように、物音を立てずに静かに室内に移動する。
部屋の隅で、ジュラは丸くなって眠っていた。室内用のラグも買ったのだが、ちゃんとその円形のラグに合わせて丸まって寝ている。親子も出歩いていたし、まだ深夜とは呼べない時間帯だ。最近、ジュラは睡眠時間がどんどん長くなっている。早く寝て、遅く起きる。12時間近く寝ていたこともあった。
ジュラが来訪してから二週間以上経つ。あっという間の二週間だ。イベント尽くしで、初めてジュラが来た時がはるか昔に感じられる。
翌朝、いつもはジュラに起こされるはずだが、今朝はそうではなかった。僕が目を覚ましたときもジュラは昨夜と同じ姿勢で熟睡していた。
僕は何となくスマホを取り出し、カメラを起動する。今のうちにこの珍獣を写真に収めておこう。こいつが地球から去ったときには、宇宙人が存在したという証拠になるはずだ。
一通り隠し撮りした後もジュラは寝息を立てており、目を覚ます気配も無い。陶器のような肌は、呼吸による胸部の上下運動がなければ本当に鉱石のようだ。ずっと見ていると陶器が有機的に呼吸を繰り返すので脳が錯覚を起こす。
起こさないように、そっと頬に触れてみる。外観の印象に反してその肌は柔らかく、冷たい。撫でると肌はすべらかだ。
(む………?)
触った感じはなめらかだが、指先に違和感があった。手を放して指先を見てみると、指に何かザラリとした粉のようなものが付着していた。
(なんだこれは………)
粉は白く、部屋に差し込む薄い陽光にかざすとキラキラと光りを反射する。よく見ると、ジュラが丸まって寝ている一帯にも同じような粉が散らかっていた。
どういう現象なのだろう? 今までこのようなことは無かったが………。粉をふくなんて、乾燥肌なのだろうか? 今度化粧水でも買ってあげようか。
ともかく、宇宙人の生態には謎が多い。とりあえず掃除の手間が増えてしまったことは明らかだった。
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