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ある放課後、今日も今日とて自宅で学校の課題をこなしていた僕はふとジュラを見た。ジュラはやはり日向で本を読んでいた。それ自体はいつものことなのでどうということも無いのだが、読んでいるのは先日渡した古代生物の教科書だ。
「ジュラ、それは前読み終わったって言ってなかったか?」
「む?」
ジュラは図を眺めるのを止めてこちらを見る。
ジュラは家にあるすべての本を読破してしまったが、こいつの不思議な点はそれだけではない。ジュラ曰く、読んだ本の情報を全て記憶しているとのことだ。内容だけでなく、文章自体も一字一句覚えているようである。大学生の僕にとってはあまりに羨ましい能力だが、そうであれば同じ本を繰り返し読む必要は無いはずだ。それなのに、思い返してみれば、ジュラは最近ずっと同じ本を読んでいる。
「新しい本でも買ってやろうか?」
「いや、よいのだ。この本に限っては何度読んでも興味深いのでな」
「ふぅん、そうなのか」
本人が良いならそれで良いのだが、面白いか? そんなものを読んで。
「うむ、気持ちだけありがたく受け取っておくぞ。ありがとう、ハクア」
言いつつ、ジュラはまたページを繰る。図に描かれていたのはティラノサウルスだった。
授業の課題をこなしていると時間はあっという間に過ぎる。帰宅してからずっと課題をしていたが、気が付けばもう夕食の時間になりそうだった。僕は冷蔵庫から食材を取り出し、キッチンに立つ。今夜は一人暮らし大学生にとって最強の料理、すなわちカレーを作ろうと思っていたのだ。
野菜の皮をむいていると、なぜか付いてきたジュラが僕の手元を見ていた。
「野菜の皮を食わないのか。捨てるくらいならヨが食うが」
「可食部じゃないんだから食うなよ」
「人間にとって食えないだけでヨは食えるのだ。ほれ、よこせ」
よこせと言いつつジュラは勝手に人参の皮を食べ始めた。
「まじかよ」
「資源とは限りあるものなのだ。無駄にしない方が良い」
なんか気持ち悪いのでもう好きにさせることにした。僕が野菜の下準備をしていると、そのすべてのゴミをジュラは食べてしまう。ジュラはじゃがいもの皮にまで手を出し始め、僕は流石に止める。
「おいじゃがいもはやめとけよ。芽に毒があるぞ」
「む、そうか。どうりでまずい」
言いつつ、ジュラは食べるのを止めない。
「吐けよ」
「まずいだけで、ヨの身体には影響がないのでな。このままヨの養分となってもらおう」
どうやらじゃがいもの毒が効かないようだった。人間なら食中毒でも起こしてしまいそうなものなのだが。宇宙人は丈夫ということか。いや、そんな気味の悪い丈夫さなど僕は欲しくはないのだが。
カレーは美味しくできたが、ジュラは口にしなかった。曰く、野菜だけでお腹いっぱいになったとのこと。イカれた食生活だ。
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