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「ハクア、ヨはふと気づいたのだが………ヨはハクアがヨ以外の人間と共に居るところを見たことがないぞ」
「ギク」
帰路、話題も尽きかけたころ、ジュラが唐突に核心を突いてきた。
「バドミントンも銭湯もゲームも、勉強も、やろうと思えば複数人でできそうなものだ。ハクアは常に独りのような気がするのだが」
「そっ、それは、だなぁ………、ホラ、僕一人が好きだし………。そっそれに、相手の方も僕なんかと一緒にいると迷惑っつーか?そう、僕の方から身を引いてやってるワケよ。気ぃ遣ってんの」
見るからにテンパりつつ僕は応戦する。
「別に普通に友と居ればよかろう」
「い、いやさすがに僕にも友達はいるぜ? でも、ずっと常に一緒には居ないだろ流石に。たまたま一人の時にジュラと一緒にいるだけだってウンウン。大学にいるときは誰かと一緒だって」
「ハクア大学でもずっと独りだろうが。昨日も独りで飯を食っておったのに」
「何で知ってんだ!!!!? まさか学校まで着いてきてんじゃねぇんだろうな!!!」
「ふはは引っかかったなぁ! 勘で言っただけだ! しかしその反応図星と見た!!!」
「ぐっ………(致命傷)」
しかし何故かジュラには看破されていた。何だこいつ、無駄に知識をつけやがってからに………。
僕には友達と呼べる関係性の知人がいない。高校生の頃から人付き合いは下火だったが、大学に入ってそれは完全に鎮火した。なぜだか僕は他人とうまく話すことができず、いつも会話に失敗するばかり。相手の気まずい反応を見て自分の失態を察しては自己嫌悪に陥っていた。そして、その自己嫌悪にも疲れ、ついに他人と話すことを避けるようになってしまった。実際ジュラがやってくる以前、最後に他人と言葉を交わしたのがいつだか思い出せない程だ。あれかな、新学期になったときに書類の発行を教務課(の応答用AI)に申し込んだときかな?
「作れよ友達。独りでは生きられないぞ?」
「つ———作りたいのは山々だよ。でも、なんかもういいやって思っててな」
人付き合いのメリットより、会話に疲れるデメリットを避ける方を選んだのだ。僕は。
「まぁ、『古生だけど個性無し』だからな。昔からよく言われたもんだ。僕なんかと居ても相手もつまらないだろうさ。だからこれで良いんだよ」
「ふぅん………そうか………」
「………」
「………」
「今の、笑うところだぞ?」
「? 何か笑うところがあったか?」
渾身のギャグをかましたのにスルーされ僕のハートにさらに傷が入る。なんだジュラの奴、死体撃ちか? 良い趣味してやがる。
「だ、だからな。僕の名前、『古生 白亜』だろ? んで僕はマジで無個性だから『古生』だけど『個性』無しっつって………」
「んん???」
ギャグの説明という高度な罰ゲームをもってしても、ジュラは理解してくれない。くそ。これ以上僕の自尊心を傷つけないでくれ………。
「はは、笑ってくれ、友達も個性もユーモアも無い僕を………」
「いや、ハクアよ、言いたいことは分かるのだ。『古生』と『個性』というのは同音異義語だろう? ハクアはそれで何か企んでいるようだが………。それが何を意味するのかが分からぬのだ」
ジュラの意想外の感想に僕はハッとする。もしかしてジュラは、僕のユーモアに笑わなかったのではなく、
駄洒落を、知らない———?
「ジュラ、僕は古生だけど個性が無い」
「ふむ」
「………生姜が無いなんて、しょうがないな」
「そうだな」
「虫を無視」
「すればよい」
「アルミ缶の上にあるみかん」
「前衛的だな」
「ふとんがふっとんだ!」
「急に何故だ!?」
僕は確信を得た。
「ジュラお前、駄洒落を知らないな?」
「ダジャレ!? ダジャレとは何だ!? 布団と飛ばす呪文か!?」
やはりだ。少しジュラの上を行けた気がして僕のメンタルは僅かに回復する。
「駄洒落って言うのは、まぁ『つまらない洒落』のことで、洒落って言うのは『その場に興を添えるために言う、気のきいた文句。ある文句をもじったり、同音や似た音の言葉に掛けて言ったりする』こと(デジタル大辞泉)だな」
「ほう………そんな文化があったとは………。まだまだこの星についてヨは知らんな。言語を取得することは簡単にできても、言語を用いた遊びまでは受け取れんからな………」
ジュラは感心したように腕を組んでいる。学習意欲が高くて非常に結構。
「母星に報告せねばな。“駄洒落”とは、また何とも面妖な文化だ………」
どうやら相当関心したらしい。こいつの星に地球の駄洒落文化が輸入されてしまうようだった。どうしよう、僕のせいで、宇宙のどこかの星で駄洒落が流行ってしまったら。
ジュラは、どうやら元居た星に帰る計画は立てているようだった。そういえば初めて会ったときに滞在する期間について触れていたような気がする。本当に、こいつは何をしに来たのだろう?
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