3

 今日も今日とて良い天気だ。こんな日は家に籠ってゲームに興じるのが一番だろう、と思いつつTVに向かっていると、暇を持て余したジュラが寄ってきた。僕の横に座る。

「………」カチャカチャ

「………」ジー

「………」カチャカチャ

「………」ジー―――――――

「………あてっ」

「くらったな」

「黙って見てんな! 人のプレイを!! 気が散るだろ!!!」

「えーだって、他にやることも無いのでなぁ」

「この前渡した教科書でも読んでてくれよ」

「あれか、読了した。非常に面白かったぞ」

「早すぎる………」

 何頁あると思ってんだ。渡して数日も経っていないのだが。


「ハクア、これはなんという遊びだ?」

「これはゲーム。ビデオゲームだな」

 画面から目を離せないので、ジュラの方を向かずに答える。

「ハクアは恐竜と戦っておるのか? その敵、先の書物に記されていた『ティラノサウルス』に酷似しているが。いや、よく見ると細部は違うな………。奴はこんなに顎に棘など生えていなかったが。」

「まぁ、このモンスターはティラノサウルスがモチーフになってるからな。でも、現実にこんなのはいないよ。これはフィクションだから」

 現実のティラノサウルスは龍属性ブレスなんて吐かないだろう。

「ふぅん………。電子機器の中で空想上の怪物を狩るのか………。人間は恐ろしい趣味をしておるな」

 確かに、敵を倒す系のゲームは流行るよなぁ。対人ゲームとは別に一ジャンルを確立している。人間の性なのだろうか、巨大な敵を倒したいというのは。

「まぁ、このゲームやってる奴はかなり多いな。このゲームもマルチプレイが売りだし」

「やらんのか、だれかと一緒には」

「そんな友達は居ないからな。僕はソロで十分さ」

 十分以上の死闘を経て無事ターゲットを狩猟し素材も剝ぎ取った後、ふと横を見ると、ジュラはTV画面を凝視していた———いつになく、真剣な面持ちで。

「どうした?」

「………何でもない」

 絶対何でもなくはないといった雰囲気で、ジュラはそっぽを向いてしまった。どうしたのだろう? もしかしたらゲームの出血表現で気分悪くしたかな?いや、こいつ生きたフナ喰いやがるからな、その線は無いか。




「ふむ………人間は恐竜を狩る。たとえそれが遊戯上のものだとしても、頭に置いておく必要があるな………」

 ジュラの小声のつぶやきはクエストクリアのファンファーレにかき消され、僕は聞き取ることができない。

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