2

「ハクアよ、暇だ、何か新しい本をくれ」

「何を唐突に………」

 ある放課後、家で課題をこなしていると、例によって日向に座っていたジュラがそう言ってきた。

「本なんて、いっぱいあるじゃないか、まさか、全部読んだのか? この部屋の本すべてを?」

「うむ、一字一句残さずな」

 ジュラが来て既に一週間以上経つ。たしかにこいつは暇さえあれば僕の部屋の本を読み漁っているが、一週間で読破できる量ではないはずだ。雑誌や漫画もそれなりにあるが、蔵書の多くは大学の専門科目の難解な教科書なのだから。ジュラは、もしかしたらかなり速読に長けているのかもしれない。

「あと僕の手持ちの本は無いんだよな………あ」

 本屋にでも行くことも考えたが、そういえば、まだジュラに与えていない本があった。僕は通学鞄の中をごそごそと漁り、一冊の極太の教科書を取り出す。

「暇ならこれでも読んでいてくれ」

「感謝する………おお、古代生物の書か」

「ああ。ずっと鞄に入れっぱなしなのを忘れていた。それなら読了にしばらく時間がかかるだろう」

 僕が与えたのは分厚い古代生物の教科書だ。化石教授の授業で使われるもので、当の教授が執筆したものだ。内容は難解を極めはっきり言って理解できたものではないが、ジュラなら何でも読むだろう。

「ふむふむ、これは興味深い。この星の古代の生態系か………」

 案の定ジュラは本に夢中になり始めた。良かった。これでしばらくは静かになるだろう。僕は課題のためにまたノートの頁をめくる。


 ———静かになったジュラの横顔を見つつ、考えることがある。先日の夜に見た、地球の近くを通過したらしい宇宙人のことだ。

 あれは一体なんだったのだろうか。ジュラ曰く、「人類に危害を及ぼす可能性は現状は無い」とのことだったが………如何せん気持ちの悪いものだ。これもジュラが言っていたことなのだが、以外とUFO的なものは地球からでも視認できるそうだ。僕自身は宇宙人の存在など信じてもいなかったが、なにせ同じ部屋に宇宙人がいるもんで考えを改めざるを得なかった。

 しかし、地球から見える空域(宙域?)に宇宙人が通っているとは………。大丈夫なんだろうか、地球は。よくあるSF映画よろしく、宇宙人に地球が侵略されるなんてこともあるのかもしれない。ジュラには媚びを売っといた方が良さそうだ。戦争になったら僕だけは見逃してくれって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る