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「お、おお………! 広っ!?」

「銭湯では大声を出すな。響くから」

 確かに、ここは一般的な銭湯よりも広い。今日では新たにこれだけ大きな銭湯を建てるには相当な金がかかるだろう。古き銭湯に感謝だ。

 湯舟に浸かる前に身体を流すなど一般的なルールを一通り教えた後で、いよいよ湯舟に向かう。

「あ“あ”ぁ“~~~~~………………………」

「おっさんみたいな声だすのねお前」

 湯舟に入るなり、恍惚の表情とともにジュラが呻く。お湯につかるとこうなるのは地球人も宇宙人も同じなようだ。

 次いで僕も湯舟に入る。一日の疲労が身体から溶け出してゆく。やはり銭湯は良い。発明した人にはいくら感謝してもし足りない。

 ジュラはいかにも気持ちよさそうに目を細めている。湯舟に入れてしまえばこっちのものだ。こいつは首から上だけは人間と同じなのだから。傍から見て怪しまれることも無い。横に広い湯舟の反対側にはおじいさんが一人だけいたが、ヨボヨボで目も開いているか分からないような有様だし、このもうもうと立ち込める湯気のお陰で僕らのことなんて殆ど見えちゃいないだろう。良かった。これならジュラが例えどんな異形でも怪しまれることはないだろう。


「ハクアよ。この壁に描かれた絵は何を意味しているのだ?」

しばらくして、あちこちを見回していたジュラが僕に問うてくる。

「んー、これは富士山だな。この国で一番高い山だ。意味、意味かぁ~………。知らないけど、この国の銭湯には大抵富士山が描かれてるものなんだよ」

 そういえば、なぜ銭湯には富士山の絵が掲げられているのだろう。理由までは分からない。チ●ちゃんなら知っているだろうか。

「ほうほう、一番高い山………どれくらいの大きさなのだ?」

「えー確か、4000mくらい?」

「なんだ、全然大きくないではないか。ヨの実家の裏山の方がずっと大きいな」

「どんなとこに住んでんだお前………」

 ジュラはどことなく自慢げだった。地球に比べてかなり起伏の激しい星に住んでいるようで。とんでもない星に住んでいるのに、「実家の裏山」という語彙が俗っぽすぎてちょっと面白い。

 ここ数日で分かったことだが、ジュラの知識欲はすさまじい。家にいるときも常に何かの本を読んでいるし、日常のあらゆる事象に興味津々だ。地球の視察に来たというのが嘘だというのはこいつから白状したことだが、ではなぜこんなにあれやこれやに興味を示すのか。湯舟につかりながら、僕はぼんやりとそんなことを考えていた。

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