3
「もう………動けん………」
信じられないことに、僕たちは数時間もバドミントンをしていた。二人で。同じ場所で。
「む、終わりか?」
ジュラはまだまだいけるといった感じで座り込む僕に問いかけてくる。終わりだよ。僕の身体が。
「ちょっと僕は休憩する、まだ動き足りないならそこら辺で一人で遊んでてくれ」
一方的に言い置いて、僕は木陰に移動する。ほとんど這うような状態だ。
日陰にたどり着き、息を吐く。ちょっと休憩だ。まだ動き足りなそうなジュラを木陰から眺めることにした。頼むから面倒を起こすなと念じながら。
ジュラは最初はそこら辺を歩き回っていたが、しばらくすると河に向かっていった。さすがに河はまずいかもしれないと思い、僕も回復してきた身体を持ち上げて河岸まで寄っていく。
ジュラは足首くらいの水位まで進み、河の流れを眺めている。僕はそれを岸から眺める。
「この星にも、このような自然が残っているのだな………。人は資源を貪るだけだと思っていたが」
ジュラが河を見下ろしつつ小声で呟く。
「河くらいどの街にもあるだろう」
「む、ハクア、聞こえていたか。これは独り言だ」
ジュラは黙ってしまって、また河を見ている。僕も何も言えずに、黙っているジュラを黙って見る。ジュラの白い肌に河に反射した日光が投影され、空間の中でジュラのシルエットだけ彩度が高く浮いているように感じる。
その横顔は何を考えているのだろう。言動のタガが外れているだけで、ジュラは口を開かなければ普通の人のように見える———
瞬間、目にも止まらぬ機敏さで、ジュラが動いた。
速すぎて僕には一瞬の残像しか見えない。それと同時に、何かが炸裂したかのような豪快な水音と鋭い水しぶきが上がる。
「うわぁっ!!!?」
僕は思わず目を閉じる。顔に冷たい水滴を感じる。
「見ろハクア! 何か捕まえたぞ!」
再び目を開くと、既にジュラの行動は終了していた。何をしたかと思えば、ジュラの手にはびちびちと蠢く魚。
「うっわびっくりした………。ってなにそれ魚? キモ」
ジュラは今の一瞬で泳いでいる川魚を補足して捉えたようだ。八本の指でがっしりと魚を鷲掴みにしている。薄黒い背と銀色の腹を持った魚だ。20cmくらいだろうか。ジュラの腕から脱しようと激しく動く度に水滴が飛び、鱗が陽光を照り返して輝いていた。魚の種類に明るくないのでよくわからないが、河にいてそんな感じの色合いと大きさというと、フナか何かだろうか。
「ふははは! 元気な魚だ! 河が良い証拠だな!」
ジュラはもうこれ以上ないってくらい興奮している。目を輝かせて。そんなにすごいのか、その魚。
フナ(仮定)はびっちびちに荒れ狂う。活きが良いなんてもんじゃない。一瞬前まで河を泳いでたのだから。鮮度抜群だ。あまりにも産地直送すぎる。
「確かにでかいフナだ。お前の体温で火傷させる前に河に返———
がぶ
ぶしゅ
ぐちゃ
———せ—————————」
「おお! 美味! 良く肉付いているな!」
「——————————————————。」
嚙みついた。ジュラが。フナに。その鋭い牙で、思いっきり腹部を。フナは一度一際大きく蠢き、そして動かなくなる。血液とも内臓ともつかない赤黒い液体がスプラトゥーンし、僕の顔にも少し飛び散る。ジュラの純白の皮膚に血が垂れ、気色悪いハイライトとなってゆく。
「………………………………………」
僕はショックで何も言えなくなる。目の前で最高に意味の分からない捕食を見せつけられ、血の気が引く。炎天下だというのに涼しい。脳の真ん中あたりが痺れるような錯覚に襲われ、全身の感覚が薄れていく。かろうじて生臭いフナの血の臭いを感じれる程度だ。
フナは一撃で絶命した。産地直送が地産地消に変わった瞬間である。そんなの見たくなかった。にこやかなジュラと、穴の開いたフナ。その落差が現実のものと思えず、眩暈がしてくる。
「………川魚は食うな。寄生虫でもいたらどうする………」
力なく、かろうじて的外れな注意する言葉を吐き出せたのは、数瞬してからだった。もうフナは半身を失っていた。
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