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「くそ暑ぃ………」

 なんだかんだジュラに逆らう気が起きず、結局僕らは近所の河原にまで来ていた。

「しかし久し振りに来たな、河原………」

 僕の住む街には割と大きな河が流れており、河に沿うように敷かれた遊歩道と共に街を東西にぶった切っている。休日にもなれば遊歩道は散歩する人がそれなりに多く、季節によっては河原でレジャーに興じる人々もいる。キャンプ、バーベキュー、釣りなどだ。今日だってそれなりにいる。僕はなんとなく河原を歩き回るが、高い空に白く巨大な雲、向こうには河にまたがる巨大な鉄橋も見え、存外良い景色だ。自然の中に存在する巨大な人工物には、不思議とそそられる。

「ははは、良い河ではないか!」

 ジュラが走り回る度に砂利がジャラジャラと鳴る。

 ジュラはまだ見るもの全てに興味津々だ。ここに来るまでも、雑草を食べようとしたり、走行中のトラックに追いつこうとしたり、なんか散歩中のデカい犬に喧嘩売ったりして、もう河原に連れてくるだけで大変に疲れた。なぁもう帰らん?十分運動したって僕は。

「よしハクア、バドミントンをやるぞ! ルールを教えろ!」

「来掛けに三回くらい説明したよな………。聞いてなかったのか?」

「うむ!」

 死ね。


 そもそもジュラと一緒に外に出ること自体心配だったのだ。何をしでかすか分からないし、何かの拍子にこいつの素性がバレたら面倒なことになりそうだったからだ。もしこいつが宇宙人だってことが世間し知られてみろ。僕の家はたちまちオカルト雑誌記者の溜まり場になってしまう。

 ジュラに四度目のルール説明をしながら、僕はそんなことを考えていた。別にこいつ独りで外に出す分は良いんだ。僕に責任が無いから。でも一緒だとなぁ………。

「よしハクア、打ってこい!!!」

適当な距離をとったハクアが叫ぶ。もう元気いっぱいだ。

「そんなに叫ばなくても聞こえてる………っての!」

 僕はハクアに向かってサーブを打つ。独特な軌道のシャトルを、しかしジュラは捉えられずに地面に落とす。

「む。当たらぬか」

「まずはラケットのリーチを把握することからだな。ほら、もう一発打ってやるから」

「よろしく頼む!」

 シャトルは拾わずに、僕はもう一つのシャトルで二発目のサーブを打つ。やはりジュラは落としてしまう。

「もう一発いくぞ」

「よろしく頼む!」

 案外ジュラはセンスが良かった。こちらからのサーブを重ねるうちに、あっという間に打ち返せるようになってくる。三十分もしないうちに長いラリーが続くようになってきた。

「おお! ははは! これは楽しいぞ!」

 スコンスコンと、ラリーは続く。ジュラはすっかり上機嫌でラケットを振る。が、僕からしてみれば意外にも打ち返すのに精いっぱいで楽しむ余裕は無い。

「くそ………最近運動してなかったから………体力が………ッ」

 ジュラのテンションと反比例するように僕の気力は下がってゆく。そもそもバドミントンのラケットなどどこに仕舞ったかも忘れるほど放置していたのだ。大学に入ってから引きこもりが加速し、屋外で運動なんてめっきりしてこなかった。そのツケが今来ているのだ。引きこもりには辛い快晴も相まって、僕の体力はガンガン奪われていく。全身が痛い。呼吸をしても、酸素を取り込めている気がしない。

 加えて、ジュラが普通に強い。さっきルールを覚えたばかりだというのに、的確に打ち返してくる。そしてパワーも強い。その細い腕のどこにそんな力が籠っているのか。ジュラは僕よりずっと背が低いはずなのに、とんでもなくジャンプしてスマッシュを打ってくるもんだからシャトルの入射角は中々のものだ。シャトルが空を切って僕の足元に着弾する。誰かがバドミントンは最速の球技だと言っていたのを思い出す。

「よし! もう一度だ!」

 ジュラは無邪気にはしゃぐ。本当に小学生か中学生のように。無垢に。宇宙人であることなど、関係無いかのように。

「………やってやるよ」

 シャトルを拾いつつ、呟く。休日の河原に、ラリーの音が響く。


(まぁ………たまにはこんなのも良いか)

 目を輝かせてシャトルを追うジュラを見て、僕は疲労とも改心ともつかない溜息をついた。

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