鋭牙

1

 ガラガラと窓が開けられる音で目が覚める。開けづらい寝起きの目で何とか時計を見ると、午前6時04分11秒。

「う………ぁ“あ”~………」

 遺跡から出土したゾンビ(?)のような乾いた呻き声をあげ、太陽光を避けるように寝返りを打つ。この部屋には自分以外一人しかいないのだから、窓を開けたのも必然そいつになる。

 くそ。土曜日くらい昼まで寝かせてくれ。こちらの都合も考えて欲しいものだ。大学生ってのは平日蓄積した疲れを癒すために休日は昼まで寝るものなんだよ。なのにジュラのやつ、また日光浴だ。アホ早朝から。おじいちゃんか。見た目は子供の癖に。

 朝から脳内の悪態が止まらない。再び布団に潜るが、一度覚醒した脳はすぐには鎮まってくれない。こうなっては布団の中で転がってても意味は無いので、僕は覚悟を決めて起き上がることにした。ひたひたとベランダへ向かう。

「………よう」

「む、ハクアか。起こしてしまったようだな。おはよう」

 ベランダに転がるジュラを見下ろす。ここ数日で恒例になった光景だ。人の家で好き勝手やりあがって。そもそも急に押しかけてきたのだ、こいつは。あれ以来何度地球に来た理由を尋ねてもはぐらかすばかり。来た理由も教えずに日々奔放に過ごされるとイラつく。

 ジュラに次いで空を見上げると天気は快晴。「これを五月晴れと言わずに何と言う」といった感じのクソみたいな青空だ。僕が俳人なら上五を「五月晴れ」としてここで一句詠んでたことだろう。



 とりあえず起きてからやるべきことは一通りやってしまったが、今日一日何して過ごせばいいんだ。普段の休日は睡眠で午前が終わるから、こうも時間が多いとかえってやることが分からない。勉強などするわけもない。どうしたものかと思案していると、

「ハクアよ。これはなんだ?」

 こんどは部屋の隅々まで漁っていたジュラが何かを持ってくる。ジュラが持ってきたのは、金属製のヘッドとシャフトの結合体、を一対と、羽が生えたいくつかの球———つまりはバドミントンのラケットとシャトルだ。

「っと、それはバドミントンっていうスポーツに使う道具だ。よく見つけたな」

 そういえば大学に入った際、友達とやることを想定して一式揃えたのだった。しかし全く使う機会が無かったのでどこにしまったかさえ忘れていた。

「ふむ、スポーツの………。要は遊興に使う道具なのだな?」

「まぁバドミントンで食ってる人もいるけど………。それは安物だから遊びに使うもんだな」

「よし、ハクア、やるぞ」

「………は?」

「道具が一対ずつあるということは、察するに二人以上で行うものなのだろう? そのバドミントンとかいう遊戯は。やるぞ。ヨと、ハクアでだ」

「………今から?」

「今から」

 冗談も大概にしろ。こんな朝っぱらから運動だと?こんな威勢のいい天気の日はどう考えても家に籠ってるのが得策だというのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る