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「う………む………。当然の疑問である………。用もなくこんな辺境には来ないものな………」

「………」

 辺境なんだ。地球って。

 ジュラはまた困った顔をして考え込む。今度は言語の同期やら検索やらではないようだ。

「………」

「………」

「………あっそうだ。ヨはな、その、し、視察にきたのだ! この星にな! うむうむ。宇宙広しと言えど、文明が栄えている星はそうないものな! どの程度の社会が形成されているかを見に来たのだ!」

「………ふーん、視察ねぇ………」

 絶対嘘だろ。「あっそうだ」って言ってただろうが。今考えたな。

 僕が疑いの目を向けると、ジュラはやはり目を逸らす。

「………そういうことにしておいてはくれまいか。いずれは、具体的には500時間後くらいには真実を伝えられると思うが………。この星に者どもを傷つけることだけは絶対に無いとだけは約束するから、どうか」

 苦しそうな顔をしながらもジュラは弁明する。不法侵入宇宙人の咄嗟の言い訳なんて信じるのは危険な気がするが、こいつ、宇宙人の癖してなかなかどうして表情豊かだ。懇願するような目つきに免じて、今はまだこの点は追及しないでおこう。他にも聞くことはまだまだあるのだから。

「じゃあさ、ジュラ、まだ質問があるんだけど」

「なんだ?」

「ここは日本だ。地球の中でも小さい島国だ。そしてここはその島国の中でもさらに小さな街だ」

「そうだな」

「どうして“この街”の“僕の家”に降りてきたんだ?」

 よくよく考えてみれば謎である。この広い星の中でピンポイントに僕の家(しかも布団の上)に来たことには理由があるのだろうか。日本のことを知りたければ首相官邸にでも行けば良い。

「それはな、なんというか、上からそう言われたからとしか言えん。あ、確認してなかったが、ここは〇〇県で合っているな?」

「そうだな。〇〇県□□市△△町××1-53 メアリーハイツ201号室だ」

「うむ。ここに来るよう言われた以上の理由は無い」

「じゃあ、なんで僕の家? 202号室の人の所でも良かったんじゃないのか?」

 できることなら隣人になすりつけてしまいたい。

「実はそれには理由があるのだが………」

 ジュラはまたきょろきょろと部屋を見回す。さっきも見回していたが、何が気になるのだろうか。

「この部屋からは、何かを感じるのだ。他の場所よりも………。特別な気配というか、匂いというか………?」

 ジュラはとうとう立ち上がって棚を物色し始める。人の棚を勝手に漁るな。

「む、ハクア、これはなんだ?」

 ジュラが棚から透明なプラスチックのケースを手に取る。中には鈍い金色の、飴のような結晶が収められている。

「それは琥珀ってんだ。なんか大昔の樹液とかが固まったものらしい。去年、教授のフィールドワークのバイトをしたときに貰ったんだ。それがどうかしたか?」

 僕の通う大学には、生徒から“化石教授”と渾名されている教授がいる。なんでも界隈では超有名な研究者らしく、大学では授業の一環で化石採掘体験などを行う。僕は単位さえ貰えれば何でも良いので、その体験にも参加したのだ。その結果、報酬としてバイト代と小さな琥珀を貰った。別に授業内容に興味は無かったが、琥珀は綺麗なので飾っておいたのだ。

「ほほう………。開けても良いか?」

「いいぞ」

 ジュラはケースを開け、琥珀をつまむ。よく見るとジュラは指が四本しかないようだ。

「ほう、これは………。なんともキレイだ。そしてこれからは何やら興味深い匂いがする………」

 ジュラは顔に接するほど琥珀を近づけてまじまじと眺める。そして———


 ぺろ


「む。うまい………」

 舐めた。琥珀を。

「ッ馬鹿! 何やってんだ! 貴重品だぞ!!!」

 ジュラは次いで牙を閃かせ琥珀を齧ろうとし、僕は咄嗟に琥珀を奪い取る。

 信じられねぇ、食おうと思うか普通! いや、宇宙人に常識を説いても無駄か………。

「えー一口くらい良いであろう?」

 ジュラは不服そうに口を尖らせている。

「駄目だ! 誰もが持ってるもんじゃないんだぞ!」

 僕は猛烈な勢いで琥珀を拭く。くそ。よだれがついてる。こいつのよだれ手で触って大丈夫なのか?毒とかだったらどうしよう。

 さっき、500時間くらい滞在するって言ってなかったか?こんな奴と三週間も一緒に暮らせというのか。僕は拭きつつ溜息も吐いた。

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