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窓を閉めた途端、外は大雨になった。暗かった空が一層暗くなる。
「ふぅ………ギリギリセーフ………。ホントに危なかった………。で」
僕は部屋に鎮座ましましている侵入者を見やる。雨も降って来たし、勢いで部屋に上げてしまったが………。
侵入者は困った顔をしてきょろきょろしている。僕の部屋にそんなに見るべきものはないぞ。
何者だろう。こいつは。直観的に、日本人ではないようだ。黒い短髪だが、瞳は宝石がはめ込まれたかのように鮮やかな青だ。肌も白すぎるほどに白い。顔の彫りが深く、目鼻立ちがくっきりとしている。総じて中性的な外見であるため、性別は読み取れない。
「………………………(困った顔)」
「キミ、誰?」
「………………………………………………(もっと困った顔)」
「………喋れねぇのか?」
「〇☆◆□△▲▲!(ぶんぶんと両手を振っている)」
意思疎通の意欲はあるようだが、こいつは何語を話しているんだ? 白亜は日本語・英語・ロシア語くらいなら聞き分けられるが、そのどれにも該当しないようだ。まずいな。言語が違うなら対話が一気に困難になる。
どうしたものかと思案していると、不意に侵入者が口を開く。
「▲▽★………a, ei, h, hello? I’m from…」
「うわびっくりした! 英語!? 英語なら話せるのか?」
「□@〇…please wait a little…」
「………?」
待てと言われたので待つが。
「………a, a, アー。言語同期、言語同期、こんにちは。見知らぬあなた」
「お、おう、こんにちは」
侵入者が急に日本語を話せるようになった。言語同期? こいつ、何をしたんだ?
「部屋にいれてくれてありがとう。おかげで濡れずにすんだ。あなたの名前は?」
侵入者は吸い込まれそうな青い双眸でこちらを見据えてくる。急にフルーエントになるじゃんこいつ。
「僕の名前は古生白亜だ。“古生代”の“古生”に、“白亜紀”の白亜」
「はじめましてハクア。ヨの名は………えーっと………言語検索、言語検索………」
「?」
侵入者が訳の分からないことを口にして黙ってしまう。
「すまない、この国の言葉には、ヨの名前に該当する音がないようだ。何と名乗ればよいか………」
名無しの侵入者が考え込んでしまう。つーか、一人称が“余”かよ。アニメキャラかなんかかよ。
「検索結果、取得………。よしハクア、ヨのことは“ジュラ”と呼ぶがよいぞ」
「ジュラ」
「うむ。ジュラである。検索の結果、これがヨに適している語のようだ。良い響きであるな」
一人満足げにうなずいている侵入者、改めジュラ。
「そうか、ジュラ。ならお前には聞かなきゃなんねーことがある」
「うむ? なんでも聞くがよいぞ?」
「お前、どこから来た何だ? なんで俺の布団の上で寝てたんだ?」
確かに名前は大事だよ。でもな、他にも聞くべきことが山積している。こいつは何者だ?
僕の直観はすでに危険信号をビンビンに発していた。ジュラと名乗ったこいつが、あまりにも異質だと分かるからだ。さっきから繰り返し口にする特徴的な語彙、世間離れした容姿、鍵のかかった二階の部屋のベランダにどうやって侵入したのか? 総じて、只者ではないことは誰にでも分かる。最早近所のガキかもしれないという説は完全に無視だ。
こいつの言動を総合して、僕の脳は突拍子も無い仮説をはじき出す。こいつ、もしかして、
「お前、もしかして宇「うむ、ヨはな、宙から来たのだ」
「ちゅうじんなんじゃ………ねぇの………。マジ!!??」
先に言われた! しかし、やはりだ。こいつ………!
「ソラといっても数百メートルのものではないぞ? 光でさえ簡単にたどり着けない距離からはるばる来たのだ、この星まで」
「………………!」
何も言えなくなる。
「うむうむ。驚くのも無理はないな。ヨが調べたところ、この惑星には公的に外部の惑星からコンタクトがとられた記録は無いからな」
「マ………ジ………か………よ………」
急に、目の前の存在が恐ろしく感じる。僕はこっそり、背後のリュックを背面に手繰り寄せた。もしこいつが何か危険なことをしでかそうものなら、僕が持っている中で一番重い参考書(900頁)の角でぶん殴ってでも止めるつもりだ。
「ヨの住む星は多分、この星の者どもにまだ発見されていない。だから、ヨのことはくれぐれも内密に頼むぞ?ハクア」
「お、おう………」
口の中が乾いてくる。動悸も加速する。とんでもない物に出くわしてしまった。参考書を握る手に力が入る。
「いやはや、屋根のある所を見つけられて良かった。野宿する羽目にならないかと心配だったのだ」
宇宙人ジュラはこちらの驚愕を気にも留めずにケラケラ笑う。姿だけ見れば本当に子供だが………。
「じゃ、じゃあ、目的はなんだ?そんな遠くから、何のために地球に来たんだ!」
「………」
ジュラがピタッと止まる。笑みも消える。なんだ………なにかヤバい地雷でも踏んだか? 参考書をいつでも振るえるように構える。
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