プロット集⑬
妙に温かい空気と、ぬるそうな雨音と、遠雷で目が覚めてしまった。
寝汗が結構キツイ、眠っている最中、無意識に寝袋を上半身に被っていないほど暑苦しく、汗が出る。
懐中時計で時刻を見ると、起きるには良い時間だった。
ベッドを覗けばどっぷりと、姫さんが寝入っていた。
相変わらずこの眠り姫は、呼吸してんだか不安になる寝入りっぷりだ。
色気もへったくれもありはしない。
口に手を沿わせても、まるで息をしている感じがない。エルフってみんなこうなのか?
以前、羽ペンでラランさんと一緒に、いたずらで彼女の鼻を、かなりきつめにくすぐった。
かなり続けても、全く意に介さないように起きなくて、ラランさんのほうが、どんどん顔を青くしていった。
ラランさんも、初めて行った悪戯らしく、彼女の目は完全に「コレ死んでないわよね?」と、俺に切実に問いかけていた。
…あのラランさんの顔青くさせるって、どんだけだよお前さん…。
彼女を起こすコツは鼻をつまみ、水のような弾力の長い耳を、少しくすぐってやると
「きゃあ!!…んぁ?」
このように、驚くように身体をおこして、跳ね起きる。
反応良く起きてはくれるが、問題はここからだ。
「おあよ、ござます、せんせ」
しょぼくれた目をこすって、大あくびをかまして。まだ夢の中から生還していないことを彼女は告げた。
誰が教室だよ。冒険者だっつーの。
「ほれ、おきろーい、顔洗に行くぞ」
「ねむいぃ…」
一応自分では動くが、目を離せばフラフラと足でも角にぶつけそうなので、肩を掴んで誘導した。
店の裏にある釣瓶井戸には、先客が何人かいたが。
あいにくの天気だったので、女将さんが用意してくれた、雨を溜めた桶で顔を洗った。
姫さんはスッキリした顔で、疲れもなくなったようだ、若いっていいねぇ、ほんと。
「薪割りを午前中してくれりゃあ、飯を3食奢るよ、あのワイバーンは村で引き取るけど良いかい?」
ワイバーンの死骸を狙って、厄介な野生動物が住み着く可能性もある。あの城を整理するなら人手もいる。
今後の村のことを考えるなら、この村を去ってしまう俺達が、好き勝手言うのは良くないだろう。
「ああ、丁重に弔ってくれ」
女将さんは、村の神父さまに弔っていただいた後、ワイバーンの死骸を、丁重に解体する事を約束してくれた。
村長との相談で得た。ワイバーンの引取金を後で渡してくれるとのことだ。
路銀がなかったので本当に助かった。でなければ物々交換しか糧を得る方法はなかっただろう。
「アンタたちが持ってた金貨や銀貨も、大きな村や街ならドワーフの好事家がいるかもしれない」
「なるほど、その手があったか」
「連中は細工物が大好きだからね、取引できると思うよ、大きな市場を訪ねて見ると良い」
女将さんに礼とチップを兼ねていくらか銀貨を渡すと、とても喜んでくれた。
「銀貨の幸運があると良いね」
「ああ、アンタにもな」
雨は小雨程度に落ち着いていた。聞くところによると、この国の天気は極端なことが多く、ほとんど半端な雲がなく、青空か、曇天かの2通りの天気しかないらしい。
「季節も他の国と違って万年温暖なのさ、今日はあったかいほうだけどね」
「変わった国ですねぇ…」
「アタシらに言わせりゃ、他の国が変わってんのさ」
裏の小屋で雨露をしのぎながら、二人で薪割りをして、昼食後。ワイバーンの鱗を村はずれの墓地に埋葬することにした。
幽き時代の神々へ祈りを捧げ、墓地の中でも小高い丘の樹の下に埋葬して。丁重に弔った。
俺達のしたことは、勝手極まりない介錯だ。
あまりにも過酷な命に、勝手気ままに終わりを与えただけだ。
罪と罰、なのだろう。
だからこそ、だからこそ死後は、ゆっくりと眠っていてくれ。竜よ。
お前はもう、苦しむ必要はないんだ。
夜、夕食を取りに来ると、女将さんは相変わらず水タバコを蒸していた。だが何故か少し不機嫌そうだった。
「これがワイバーンの引き取り金だ」
「ありがとうございます」
姫さんが受け取った袋を覗くと。赤く鈍い光を放つ変わった銀貨が、多めに何枚も入っていて。
部屋で読めと書かれた紙が、1枚、入っていた。
「もう2、3日で出発する。世話になったな」
「わかった、一週間はいるって、あのクソッタレな若い衆には伝えておく」
「…助かる、ここに来て、最初に話したのがアンタで良かった」
「アンタは煙くない客だったよ、じゃ、また明日」
部屋に戻って紙を確認すると、裏側に明日の早朝出たほうが良いと書かれていた。
彼女の気遣いに深く感謝して、俺は紙を小箱に大事にしまった。
ずいぶんとまぁ、ヤンチャな事で、笑いものにするしかねぇや…、吐き気がする。下衆共が。
旅において、考え無しにはすぐに死ぬか、騙されてなにか失う事になる。その駆け引きが楽しい部分もあるが、悪事に巻き込まれるのは不快でしかなかった。
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