プロット集⑪

霧が晴れると、見覚えのある空と、遥か彼方に伸びる白い根っこが、俺の心に若い、いや、幼い頃の郷愁を思わせた。

正直、俺ことクック・ヤンがこの地を再び訪れることができるとは、欠片も想像していなかった。

何度探索しても行ける道はないと。半ば諦めかけていた。


あの空と白い根を見た時、つい歓喜に打ち震えたほどだ。

古い友人、古い恩人、そして失った者たち、走馬灯のように若い時代の青春が脳裏を駆け抜けた。


迷い込んだ原因は、思い当たる節は無い訳じゃないが、よくわからない。

相変わらず人を惑わし、迷い込ませる土地のようだ。


俺達がこの地に迷い込んだ時。標高の高い山の、ワイバーンの巣の中で、俺達はいつの間にか、ピーピーうるさいワイバーンの雛と向かい合っていた。


餌になってやる理由もなく、驚くラランを抱えて飛び立つと、ワイバーンの群れと遭遇、現在迎撃中というわけだ。


「クックー、いったわよー」

「おー」


地面に落ちる前に、ラランがまた一頭、鉤縄で俺に振り回されて、空中を踊り、ワイバーンを気の抜けた声で3枚卸にした。


俺の方にも飛んできたので、適当にメイスをぶん投げて、頭をかち割って、地面に叩き付けてやった。


「ギャアアアアアアアア!!」


敵わねえんだから、逃げたっていいだろうに。まだ3匹も残っていた。

奴さん方、ナワバリを侵されたのが相当腹に据えかねている。俺が空を飛んでるのも気に食わないんだろうな。


「きゃー、焼かれちゃうー」

「へいへい…」


うんざりしながら相手していると、ワイバーン3匹は、3発ほどまとめて、ラランに火球を放とうとしやがった。


抑揚のない棒な言い様で助けを求められた。なんだかなあ。子供がじゃれているみたいだ。

自分でどうにかできるもんな。彼女はドワーフだから、炎はあまり熱くないのだ。

まとめて一気に火球ごと、一頭の顎を強引に蹴り抜いて撲殺した。


「ご、ぎゃああああああ!!」


空中で蹴りぬいたワイバーンは。近くの味方を巻き込んで、絶叫しながら爆発四散して、地面に落ちていった。


「はいこれで、最後」


最後の1匹が地面に着地していた、ラランが投げた何個もの投石で、目や身体を撃ち抜かれて、墜落していった。


「15匹はやったかしら?」

「そんなもんか?、もっと多くねえか?」

「そうかしら、…何か見えた?」

「いいや、だが懐かしいぜ…」


ラランを抱き上げて、空を高く飛んで辺りを見渡した。

荒れた土地というほどではないが、切り立った多くの崖に、長く伸びた草、激流の大滝に、遠目に見える凶暴そうな野生動物たち。

人を拒絶するような前人未到の地で、恐れ多くも幽き時代の神々を思い起こさせた。

もっと以前、遥か遠目に見たままの景色だ。


郷愁に思いを馳せていると、鉄鎧の袖を引っ張られる感覚があった。


「そんなに身震いしちゃって、帰ってこれて嬉しい?」

「…まあな、この国には、思い出が多すぎる」

「…そう、とっても寂しそうね、クック」

「ああ、慰めてくれるか?」

「もちろん、次の宿は愉しみにしていなさい」


少し飛んで人の形跡があるか探ったが、まるでそんな物はなかった。

妖精殺し、人の手が入っていない秘境ってのは、本当だったんだな…


「だめね、派手に暴れれば向こうからだれか、見つけてくれるかと思ったけど」


広範囲を飛べるだけ探索していたが、人の痕跡はまるでない。

派手に動けば向こうから気づいて、空に魔法でも使ってくれるとよかったんだが、そう上手くはいかなかった。


「霧がおそらく原因だし、集団失踪とかじゃねえと良いんだがな」


あの霧のせいで全く別の場所に、飛ばされてしまったのだろうか。これだけ暴れて、一切反応がないのであれば、その可能性が高かった。


「よし、見つからないなら山を降りよう。降りさえすれば、いくら何でも現在地がわかると思う」

「飛んでいく?」

「いや、これ以上はやめとこう、必要があったらでいい」


ワイバーン以上に厄介な野生動物がいる危険性は高い、そこそこ消耗もしている。

人を探して自分たちが危機に陥って、死んでしまっては意味がない。

この山を降りるまでは、気軽に空の旅というわけにはいかなかった。

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