プロット集⑩

村にたどり着くと、一見、快く村人たちは俺達を迎え入れてくれた。

宿屋も酒場も小さいがちゃんとあるらしい。茅葺きの簡素な民家が多く立ち並んでいる。

姫さんの長い耳で、会話は遠くからでも、しっかり聞き取ることができた。言葉が通じないという事はなく、幸運にも会話は可能だった。


一通りの建物はあるのだろう。万国共通の教会もあって、幽き神々のシンボルが簡素に飾られていた。

だが、冒険者ギルドを示す旗はなかった。小さな村だ。そういうこともあるだろう。


「…っ」


隣を歩いていた姫さんが、こっちを不躾にジロジロ見ている若い連中を見て足を止めた。

どうみても、いやらしい顔を向けてヒソヒソ話してやがる。…ったく。


「ほれ、嫌なら戻るか?」

「…いいえ、行きましょう」

「いつでも嫌なら言えよ」


姫さんに腕を差し出して、彼女は俺の袖を片手で恥ずかしそうに掴んだ。

結構強がりなんだよな。この娘。そうじゃなきゃ冒険者は選べないか。


彼女を連中の視界に入れないようにしつつ、堂々とそのまま歩き出した。

亜竜を倒した後だと、剣を帯びている若い連中数人なんざ、尻尾に卵の殻が付いてるトカゲ程度にしか感じなかった。


だが油断は大敵だ。俺は幅広の剣を押し上げて、同時に、腰に専用固定具で差しているスクロールを、連中に見えるように傾けた。


「…………………」

「チッ…」


若い連中から舌打ちが聞こえたが、ゴーグル越しに無言でつまらなそうに見ていると、そそくさと連中は散って行った。


宿泊にはダロス公国の通貨が使えなかったので、俺たちは泣く泣くワイバーンの鱗を女将さんに提供しようとした。


「あんた達、そんなぶっとい鱗どこで手に入れたんだい?」

「ワイバーンだ、あの城に居たやつだよ、討伐してきたんだ」


「…本当かい?、ならお代はいいから、2、3日確認のために泊まって行きな」

「いいんでしょうか?、お金、ありませんよ?」


「どうせ稼ぎなんて知れてるんだ、ゆっくりしていきなよ、礼代わりさ」

「ありがとうよ、…この辺の地図はあるかい?」

「壁掛けのデカいやつがそうさ、妖精様との合作だよ」


妖精?、エルフの事か、観光向けの謳い文句だろうか?

何にせよ、泊まらせて貰えるならありがたい。手持ちの宝石も質に出さなくて済む。

壁掛けの地図は凝った事に、木彫りで大きく、立体的な地図が飾られていた。


見事な一品と言っていい品だった。盗難防止用に、デカいのもあるんだろうが。

これならば妖精と共に作ったという謳い文句にも、一定の理解は示せるだろうな。


「そうだね、紙のやつが欲しけりゃ、村のことを手伝っておくれ、そいつ同様、精巧なやつを用意できるよ?」

「そいつは良い、助かる。是非請け負おう。他に聞きたい事も多いんだが、いいか?」


女将さんは水タバコを取り出して、軽く燻らせながら快諾してくれた。

俺も姫さんも、水タバコを勧められたが遠慮した。ハッカ入りのいいヤツみたいだが趣味じゃねえんだ。悪いな。


代わりと言っては何だが、談笑中は俺も7つ星の煙草を、火を付けずいつも通り咥えていた。

彼女にも1本プレゼントして、燐寸で火をつけた。


「ありがとうよ、美味い銘柄だね?」

「爺様の形見さ、よく買うんだ」


彼女との会話の結果、この土地はマヴィオニーと呼ばれる王国の、シャトーグラベ地方という名であるようだ。

俺も姫さんも案の定、全く知らない土地だった。

この村はその中でもかなり標高が高く、谷間沿いにまっすぐいけば、向かいの山まで一望できるらしい。


クック頭目と、ラランさんの似顔絵を渡したが、面識はないそうだ。


「人探しってんなら、いっそ王都へ向かうと良い。順調にさえ行けば、半年程かかるが。街道なら比較的安全に行けるよ」

「迂回路か?」


地図に示されている彫り込まれた街道は、山を避けるように迂回して道を示していた。


「ぐるっと国中回る形になるが、まっすぐ行くには妖精殺しがあるからね」

「妖精殺し、ですか?」


「山だ。麓のワイバーンの巣が楽な方ってんで、秘境っぷりがよくわかるだろ?」

「なるほどな、あのワイバーンも?」

「ああ、伝え聞く限りではそこから来たらしい、古い話さ」


勝手に荷物に増えてしまったリボルバーと、掘られた名前も質問してみたが。心当たりはないそうだ。

いったいどこから紛れ込んだんだろうか。世界は不思議に満ちていて、驚くことばかりだった。

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