プロット集⑨

俺の横には雷撃で即死したワイバーンが、ビクビクと身体を震わせて横たわっていた。

電気の筋肉反応で動いているだけなようで、姫さんが駆け寄ってくる頃には、全く動かなくなった。


「勝てましたか…」

「ああ、勝てた」

「大丈夫でしたか?」

「なんとかな、ゲホッ、煤臭くって敵わねえや」


二人して死んだワイバーンを調べると、縫い付けられていた片腕は、雷撃を受けた拍子に外れて、橋の下に落ちたようだ。


「この子、こんな状態で、どうやって生きていたんでしょう。ご飯、食べれませんよね……?」

「多分腕だ、そこから魔力で無理やりだろうな。切り離して眠らせてやろう、冒険者の流儀でだ」


おそらく眠ることも奪われていたのだろう。その証拠に近くで見れば、眼の隈が酷く黒かった。


幅広の剣を引き抜いて、縫い付けてやがった腕を切り離した。腕は魔獣のようにすぐに崩れていった。


「この巨体だ、埋めんのは無理だ。鱗だけ数枚取って、埋葬してやろう」

「今回は身体を、取らないんですね」

「流石にこれ以上は、人が奪っちゃいけねえさ、偽善でもな」

「…はい」


俺が倒した獲物は積極的に、スクロール制作に使用していた。

今回ばかりは流石に、静かに眠らせてやりたかった。


「気分のいいもんじゃねえな、流石に」

「…………ええ。私は……、何でも、無いです」

「ん。あ~足、緊張でゴワゴワだ、歳は取るもんじゃねえなぁ、おい」

「重ねるもの、でしょ?、よく、わからないけど」

「オッサンになることだよ、よし、行こうぜ」

「はい」


やけどを傷薬で治癒し。分厚く大きい手のひらほどの鱗を数枚剥がした。

隠していた背負い袋から布を取り出し、鱗を丁重に包んで足を進めた。


いつもの調子を取り戻してもう一度、さらに高い城壁の上を登り、遥か遠くの風景を見下ろした。

望遠鏡で辺りを探索すると、いくつかの事がわかった。


「あの空の真っ白いの、何でしょうね?」

「さあ…?」


空の彼方には、何本もの白い根のようなものが垂れ下がっていた。

雲…にしては色が真っ白過ぎるし、そもそも動いていないようだ。

変わった雲と言われれば、そうなのかもしれないが…なにか違うモノに俺には見えた。

ん?、というより雲が全くない、…偶然か?

何にせよ、青と白のコントラストは絶景だった。

旅の醍醐味ってやつだな。


「綺麗…」

「ああ、そうだな、あとは…」


この城は谷間の上に建っていてかなり下ると、断崖に挟まれた谷間に、ずっと草が瑞々しく生えた大地が広がっている。


見ると谷の底を流れる川のほとりには、田畑が作られ、いくつもの風車があって、風の力を利用して、川の水を汲み上げているようだ。

民家が立ち並び、その煙突からは煙が上がっていた。


「良かった、人がいました!!」

「ああ、一安心だ、本当に」

二人して人の営む村を目にして、安堵の息を深く吐き出してしまった。なにせ本来なら依頼を終えて休むつもりだったんだ。


ずっと人が住む場所にたどり着けなければ、いくら何でも旅路が持つわけがない。

わけがわからないこの事態で、つい心の中で老竜様に感謝を捧げた。見つけられたのは幸運だった。


「風車?、どこでしょう、ここ」

「わかんね、強いていやぁ、本で見た、北大陸に近い場所な気がするが…」


農作業に従事する人や、大工仕事に精を出す人。風車に何度も出入りする人もいた。

忙しそうではあるが、どこか穏やかに過ごしているようだ。

あ、水タバコ蒸して、サボってるヤツもいるな。


「何にせよ、煙があがってんなら文化的に暮らしてるだろ、向かおうぜ」

「ですね、もうお腹空きました」

「依頼帰りから連戦だぁ、宿借りて、飯食って、しっかり休もう」

「……えっと、ふたりきり、…ですか」


姫さんは頬を桜色に染めて、俺から少し距離を取った。

ならあえてからかうか、そのほうが元気出るだろ。


「そうだが?、なーにいっちょ前に、色気づいてんだい?、行くぞ」

「べ、別に色気づいてなんて、いませんよ!、ふ

んだっ…」

「そうかい?、若いんだから、いろいろ遊ぶべきだと思うぜ、俺はよ」

「…あなたと私は、違いますよ」

「そうだな、違うな、それでいいんだよ」

「…?」


城門を越えて裏に回ると、そのまま歩いて谷間に下れそうな、村に続く道を見つけた。


道中野生動物も見かけない物が多かった。例えば角の生えたウサギや、背びれのある蛇がいた。


ここは本当にどこなんだろうか?、あんな生き物、聞いたことすらない。

姫さんもほんの少し不安気だったので、少し気を紛らわせるために、俺は以前から聞いてみたかったことを聞くことにした。


「そういやあ、お前さんは何で冒険者に?、エルフなら引く手数多なんだろ?」


見目が美しく、知能が優秀であることが多いエルフは、要職につくことが多い。

普通はもっと安全な職につきたがる物だろう。


「そうでも無いですよ。色々ありますが…」

「奇遇だな、俺もいろいろだ」

「ん〜、そうですね〜…」


姫さんはしばらく冒険者になったきっかけについて、何から俺に話すか考えていた。


「父様が元冒険者なんですよ、探検家の友人である先生と組んで、活動していました」

「なるほど、後継ぎか?」

「どちらかと言うと、冒険譚をよく聞かされたもので、あなたは?」

「ガキの頃、列車から老竜さま見てな、それでだ」

「ああ…、どおりでドラゴンを」


老竜さまはかなり気さくな方で、首都ダロスへの観光列車の鉄道で。気まぐれに見える範囲で飛んだり、飛びながら顔を、よせてくださったりすることがあった。


今でも覚えている。俺は幸運にも家族旅行中、その御姿を近くで見る栄誉を賜った。

見知らぬ竜に会いたいから、冒険者になる。ダロスではよくある理由だった。


「でも、ならなんで若い頃に、冒険者にならなかったんですか?」

「実家を継ぐのも、悪くないと思っていたんだが、旗色が悪くてな…」

「…ふむ?」

「何にせよ、今冒険が楽しければ、それでいいんじゃないか?」


「ですね、まあこんなに早く亜竜を倒すなんて、夢にも思いませんでしたけど」

「俺なんか人生で、まともに会えるとすら思ってなかったぞ?」

「ぷっ、なんですか、それ」


相手を信頼でき仲間として冒険できるなら、問題ないだろう。重要なのは信頼だ。

問題なのはクック頭目と、ラランさんが、どこいったか全く分からないことだ。


「クックさんたちは、大丈夫でしょうか?」

「俺等が心配するのは、おこがましいかもだが、無事合流出来るといいんだがな…」

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