プロット集⑧

俺は城門にかかる橋の反対側で、城の中で見つけた大型のカイト・シールドと、スクロールをひとつ構えて、ジリジリとワイバーンに近づいていた。


しばらく遠くから石を投げて観察して見たが、ろくな反応を周囲に返せていなかった。俺の想像通り聴覚も死に、触覚も大半が剣や槍に潰されて、痛むだけのモノに成り果てているらしい。


橋の端っこの踊り場で身を潜めて待つと、城壁の上に陣取った彼女が、手を降ってこちらに合図を送ってきた。


決闘開始だ。




魔法。


真に強き言葉を紡ぎ、律と理を捻じ曲げ、摩訶不思議な現象を呼び起こす、モノ。


数多の戦の果てに、魔族から人間種が奪い取り。

この星を固めし竜に、教えを乞い。

…神々が、幽き時代に遺し給うた、秘すべき術。


私は城壁に登り、傷つき哀れな竜を、眼下に見定め不遜にも見下ろした。


目を、閉じる。


決闘を前に、意識が高揚し、喉が渇く、心臓の拍動が高鳴る。


目を、見開き。相手を見据えた。


─────────── 戦うと、彼と決めた。


天の定めたる律は、既になく、

人の理が、彼を犯し尽くすと云うのなら、


《地の御霊にて、貴方の命を、いただきます》


私は両の手を打ち鳴らし、地の御霊たる星精へと願い奉った。


《地の御霊たる星精よ!、我が呼び声に応え!、彼の命を奪い給え!!》


真に強き言葉を世界に響かせ、祝詞を受けた星々の精が土を伴い、集い始めてくれた。


1つ集う。2つ集う。3つ集う。


そこで、ワイバーンはいかなる感覚か、傷ついた身体で、顎を持ち上げこちらに向けた。


「ギィ、ぐぁ、ガガァ……」


「やっぱり撃つ気か!、あんな体で!」


ワイバーンは顎を持ち上げ、姫さんの用意した取っておきの魔法、「星精の霊礫」を竜の息にて、迎撃する構えだった。


「星精の霊礫」は今の姫さんは最大で、ワイバーンの胴体ぐらいの岩礫で攻撃ができる。

決まりさえすれば絶大な威力があった。


竜は、生きている限り、決して敵に顎を下げない。

亜竜とて竜は竜だ、そして作戦上それこそが、こちらの勝利条件だった。


故に、今まさに決闘と成立した。


「なら、遠慮はいらねぇなあ!!」


魂の熱量を限界まで引き上げる。竜を殺すなら、必要不可欠だ。

あえて虎口どころか、竜口に潜り込む。

全力で駆けよる内に、圧倒的熱量が竜の口に集まり始めた。


4つ集う。5つ目、集う。、…1つは残す。


5回分の大岩礫が1つに固まり、彼の傷つきし竜に、魔の法を捧げる準備が整った。


「撃てェェ!!、姫さん!!」

「はい!!」

「ゴ、ガァ、ア、ああああ、あああ!!」


5回分の魔法が、ワイバーンに襲いかる。

先手はこちらだったが、あちらも熱を迸り捺せながら、すぐに竜の息で迎撃した。


目が光で焼ける、炎の精が遊び回り肌を焼く。

本来長い舌で射線を確保すべき竜の息は、その恩恵を受けず、暴れに暴れて、ボロボロと崩れながらも姫さんの一撃を迎撃した。


遮光用のゴーグルを、奮発して買った甲斐があった。でなければ俺は、目を焼かれて足を止めてしまっていただろう。

汗が目を流れるが意思で無視する。まばたきも許されない一瞬を駆け抜ける。

カイト・シールドは焼け爛れ、俺もそこそこ、火傷を負ったが…。


「ここだぁ!!」


滑り込むように竜、唯一の弱点、股下に飛び込んだ。

2方向から魔法を打ち込んでも、ワイバーンの纏う鱗相手では耐えられ、暴れられ殺される可能性や、こちらの手札が尽きる目算が高かった。


故に鱗が少なく、鎧もなく、竜の息が吐かれる間は動かない。このタイミングしかそこに潜り込めず、俺達に勝機がなかった。


これが手や翼を持ち、目を持つ無傷のドラゴンなら、叩き返されて俺は潰れたトマトだろうが。


彼には既にそれら無事ものは無い。…無いのだ。

故に、俺はたどり着いた。

竜口の下に。


囁き、祈り、詠唱、念じる…、本当に?


大いに…、合わねえ。


俺は血みどろの海で、ドロ濡れ回り、書き記すのが流儀だ。

おぞましくもその道こそが俺の生き様だ。だから、だから、死んでくれ。竜よ。


「悪いな、先逝っててくれ」


スクロールを勢いよく広げきり、思いっきり横に飛び込んだ。


今回の品は、非常に希少で極少量しか採取できない電気鼠の血と、よく見かける穴土竜の皮で出来た一品だ。

爺さんと共同で試作した中で最も強力で、特許申請中の、自慢の一品だ。


苦しみ抜いた竜を送るのに、せめてもの苦しみにならず終わらせられるようにと、祈り選んだ。


竜の雷吹きのような雷が立ち並び、鱗の隙間に雷が潜り込んだ。

体中と内蔵を穴だらけにして、強敵たるワイバーンを即死させることに成功した。


彼を介錯し、俺達は勝利することが出来た。

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