肩透

愛愁

肩透

弟が死んだ。

どうやら自殺らしい。

1000年前に比べて随分科学も進化して、色んな化学兵器や道具が登場していたが、うちにはそんな金もなかった。

友達がそういうものを沢山持っているのに対して、うちにあるのは型落ちのパソコンだけ。そんな現実に嫌気がさしたのだろうか。

金さえあれば。...


⬛︎⬛︎


僕は金持ちになった。教祖になって金を稼いでいた。

集会を開いたりするわけではないが、インターネットのインプレッションで稼いでいた。この時代のインターネット人口は21世紀とは比べ物にならないくらい増えている。インプレッションで稼ごうとする人間が多いが、裏を返せば稼げるようになれば安泰ということだ。

僕は遂に金持ちになった。

弟よ、俺はお前に楽をさせてやれる。

生きてさえいれば、だが。


⬛︎⬛︎


人工臓器の登場により人類の寿命は遥かに伸びたが、寿命が伸びたのは富裕層のみである。貧乏な人間達は必死にその日暮らしを続けている。

人工臓器や人工細胞によって、僕は300年ほど生きたが、人間というのは醜いものだと言うことを悟った。

匿名でならばどんな汚いことでも言う。

匿名ならばどんな綺麗事だって語る。

きっとこいつらは金持ちなんだ。僕の信者たちだって金持ちだ。

こんなゲスイ奴らが生きていて、どうして弟が死ななきゃいけなかったんだ。

300年経っても、弟は僕の心に変わらずいる。


⬛︎⬛︎


信者達は僕の言うことを全て本当のことだと思っていた。どんな仰天な嘘をついても彼はそれを信じていた。

人工臓器が無くても私は300年以上生きているだなんてことを言った時には、彼らは喜び泣いて僕を祝福し始めた。

こんな馬鹿どもが、金を持っているからと言う理由で生きながらえている意味がわからない。

僕は『丁度一年後の今日に天変地異が起きる。君たちが天国に行くためには天変地異の日に聖なる魂を肉体から解脱させなくてはならない』と呼びかけた。

彼らは疑いもせずに信じ始めた。


⬛︎⬛︎


そこから数ヶ月経ったある日、タイムマシーンが誕生した。弟に会いに行こうと思ったがそれはまだ無理だった。

アナログな世界ではなくデジタルな世界でなら過去未来と接続できるようになるらしい。

価格は凄かったが、僕は少しでも多くの金持ちを殺してやろうとそれを購入した。


⬛︎⬛︎


僕が大嘘をついてから丁度一年が経った。

色んな人が僕の嘘を見たのだろう。

そういえば、今日は弟の命日だ。

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肩透 愛愁 @HiiragiMayoi

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