・総力戦:オーリオーンの闇計画 - 闇はもたらされた -
「欲深き円環は現地調達を好む。その中でも高く評価した敵個体は、我々のような円環の騎士の肉体を与えられる」
防ぎ切れない一撃一撃がパルヴァスのディバインシールドを傷付ける。
このままゆくと少しまずいかもしれぬ。
丸裸にされる前にまず数を減らさないと……。
バカな、この我が、苦戦するなど、こんなバカなことが現実に起きるだなんて……。
「己の傲りに気付いたようだな。どんな相手が束になってかかってきても、己ならば勝てると、お前はそう思い込んでいた。……認めよう、その傲慢さこそが竜族の証にして弱点」
負けん。我は負けん!
たとえ丸裸にされようとも絶対に負けん!
我はオーリオーンの闇をもたらし、ミルディンとパルヴァスの元に帰るのだ!
「ククク……つまりそなたら古の……円環に破れし竜族というわけか……?」
「さよう。私もまた、傲り高ぶった最強の竜の一人だった」
敵がこんな奥の手を切らずに隠しておるとはな……。
うむ、そうか、こやつら皆、同胞か……。
道理できついわけだ……。
「ならばなおさら、負けるわけにはいかぬ……」
「まだ傲り高ぶるか」
「ふっっ、当然であろう!! 我は新しき竜族っ、復讐を果たさんがために造られし決戦兵器っっ!! 貴様らごときロートルに負けては、役目が務まらぬわーっっ!!」
我はリグゥインに挑んだ。
ディバインシールドを削られること承知で、捨て身のカウンターを叩き込んでやった!
ガードを捨てて反撃の拳を叩き込んでくる相手に、リグゥインの動きが鈍ったところでラッシュをかけた!
「元同族であろうとも敵は敵っ! 滅びよっ、円環に組みする竜族の面汚しがっっ!!」
手刀でリグゥインの首を刈った。
……はずだったのだかな。
「う、ぐ……っ?!」
やられたのはこっちだった。
ディバインシールドが尽きた。
神聖なる我らの決闘に割り込んできた匹夫どもに、腹と胸と足を剣で刺された。
「運に見放されたか、哀れなり、新たな竜族よ」
「ク、ククク……この程度では死なぬ……」
「だがその傷では勝つことも難しい。隔壁を破り、目的を達することももはや不可能だろう」
「否、そうでもない……」
我は匹夫どもを片付けた。
剣を我が身から抜き取り、傷口を術で癒した。
我に流れるミルディンの血あっての術だった。
「我にはな、素敵な彼氏がいるのだ……。まだ交際を約束したわけではないのだが、我が彼氏と決めたら即、彼氏だ……」
「……現実逃避か?」
「否、その彼氏は神の子なのだ。パルヴァスはディバインシールドの他にもう一つ、奇跡の加護を授けてくれた」
この力をミルディンに報告したら、勝ち確定とまで言われた。
だがこの力には問題が一つあった。
ディバインシールドと同時に発動ができなかったのだ。
「ク、ククク……あまりに卑怯な力ゆえ、使いたくなかったのだがな、そなたは強すぎる。我は母を見習い、手段を選ばぬことにしよう」
「何を……む、逃げるか!」
「逆よっ!! フォボスの手よっ、狂乱をもたらせいっっ!!」
死ぬほどムカつくが、ガルガンチュアはいい仕事をした。
今でも我にあんな恥ずかしい思いをさせた恨みは忘れてはおらぬが、この新しい加護【フォボスの手】は凶悪だ。
我はフォボスの手で円環の騎士どもに触れていった。
するとやつらは頭を抱えて奇声を上げ始める。
「何……っ、なんだ、その力は……」
「フォボスの手。触れた相手を狂わせる最悪の加護だ。これで貴様の味方はいなくなった」
円環の騎士たちは同士討ちを始めた。
もちろんリグゥインも同士討ちの対象だ。
我は元から全員と敵であるからな、何もかわらぬ。
「さあ、決着を付けよう。カビの生えた漬け物石が勝利するか、新たなる我が勝利するか、この一撃で決めようではないか、リグゥインッ!!」
「よかろう。……新たなる竜よ、お前の名を聞かせてくれ」
「我はファフナ!! 誇り高きザナーム騎士団の一員ファフナだっ!!」
「ファフナ、竜族に栄光をもたらせ」
「かようなことっ、言われるまでもないわーっっ!!」
我は円環の傀儡に成り果てた竜。
だが傲慢ゆえに誇りを失わなかった竜リグゥインとの決着を付けた。
リグゥインは円環のために戦ったのではない。
傲り高ぶった我のために、竜族のロートルらしく拳で説教をしてくれたのだ。
その後、全てを退けた我は目前の隔壁を破り、円環の瞳の中枢へと至った。
・
中枢には人間の男がいた。
男は素っ裸だ。
その時点で怪しすぎるなんてものではなかった。
「奇妙な竜よ、契約しませんか?」
「……なんじゃそなたは? なぜ人間がこんなところにいる?」
「どんな願いも叶えて差し上げましょう。大切な人の蘇生、莫大な富、権力、氏族の繁栄、最強の肉体、不老不死、芸術の才。なんであろうとも叶えてみせましょう」
しかしその素性は我でもわかった。
そやつは欲深き円環だ。
かつて人間と取り引きしたように、我との取引を望んでいた。
「信用できぬな。取引がしたいのなら、我らにかけた呪いを解くのが先であろう」
「申し訳ない、それはできないのです。一度交わした契約は絶対。不履行にならない限り、絶対なのです。……我々にとっては」
時間稼ぎであろうか。
戦闘ができるような身体には見えぬ。
「そうか、ならばこの世より去れ!」
「はい、結局、そうなりますよね……」
「当然であろう!」
しかし敵意が感じられない相手を斬るのも我の美学に反する。
我は変態男の隣をすり抜けて、目の前のおかしな物体を睨んだ。
「仮に我々をこの世界から駆逐したとしましょう。だが、我ら円環の本体は、あらゆる次元、あらゆる銀河に根を張っています」
「さよか」
「円環は採算が合う限り、あるいは契約が満了するまでの間、無限の軍勢をこの世界にもたらすでしょう」
「なんと迷惑な存在じゃ」
「我々の瞳を一つ奪ったところで無駄なことです。必ず我らは取り立てに戻るでしょう。そのことを、努々忘れないで下さい」
「すまん、我は阿呆だ。何を言っているのかさっぱりわからん」
この目の前にある光る石の目玉が中枢であろうか。
「フフ……。しかし一個の存在として言わせていただくなら、私は君たちのそんなところが、とても愛おしく思っていました。無知で弱い君たちが、恋をして、戦って、精一杯に生きて散ってゆく姿が、私には儚くも美――」
我は石の目玉を握りつぶした。
すると隣にいた変態男がドロリとした青い液体になって崩れ落ちた。
続いて建物全体から魔力が消えたかと思えば、辺りが真っ暗闇に包まれ、それが赤い光に切り替わった。
本来の照明も、この構造物を浮遊させていた機能も、全て壊れたようだ。
我は翼を羽ばたかせ、欲深き瞳から去った。
『ありがとう、お客様。これで私も、やっと、眠れます。ありがとう、ありがとう、どうかまた、楽園都市アガルタに、お越しを、どうかまたお越しを』
最後におかしな声を聞いた。
あれはあの戦おうとしない円環の騎士の声だったのだろうか。
あそこは元々は別の施設だったのだろうか。
まあよい。細かいことはミルディンが考えてくれる。
ミルディンの元に帰ろう。
きっと我のことを心配している。
パルヴァスよりも先に、ミルディンに会いに行かなければ……。
我の無事な姿を見せてやりたい……。
母上、我は無事だ。
我は母上の声を早く聞きたい……。
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