・総力戦:オーリオーンの闇計画 - 楽園 -

・総力戦:オーリオーンの闇計画 - 楽園 -


 天空の一角に晴れることなき渦巻く暗雲渦あり。

 彼の地こそがきゃつの目玉。

 新たな贄を求めて舌なめずりをする欲望の眼。


 我は竜の姿を取らず、人の姿で暗黒の渦へと入り込み、濃霧の領域を突き進む。

 その霧、強酸の霧なり。狂気の毒を含む物なり。


 しかし心配はご無用。

 我には愛しきつがい殿がもたらしたディバインシールドがある。


「おおっ、本当に翼もなしに空を飛んでおる! 飛ぶ目玉など初めて見たわ!」


 酸の霧の内側には奇妙奇天列な巨大構造物が浮かんでいた。

 四角垂に天使の輪がくっついたような、訳の分からぬ構造物だ。

 それがエーテル体どものように青白く光っている。


 我はそのおかしな構造物のど真ん中を蹴り破った。

 我が内部に突入しても、敵の迎撃はまるでなかった。


 まあ、ミルディンがこうなるよう仕向けたとも言えよう。

 我らがザナーム騎士団の陽動は大成功だった。


「しかしここは、本当に最重要拠点なのか……? なんじゃここは、目がチカチカしてかなわん……」


 外がまぶしければ内側もまぶしかった。

 床も壁も光るおかしな通路を、我は順路を無視して蹴り破って進んだ。


「なんじゃ……なんじゃここは……」


 蹴り破るとそこは人の部屋だった。

 ミイラのようにカサカサになった主がベッドに横たわっていた。


 そんな部屋がいくつもいくつも続いた。

 なんの種族かは定かではない。

 人間か、神族か、それに似た何かに見えた。


 いくつかの部屋を蹴り抜けると、別の通路に入ったようだ。

 通路を円環の騎士が巡回していた。


「おい、そこの騎士! ここはなんだっ!?」


 中枢の破壊を優先せねばならなかったが、気になった。

 円環はなぜあの死体を片付けぬのか。


「お……お客様……? おお、お客様、お客様なのですね……!」

「う、うむ……?」


「ようこそ、楽園都市アガルタへ。貴女は実に3372年ぶりのお客様です」


 その円環の騎士は武器を持っていなかった。

 それどころか揉み手をして招かれざる客を迎えた。


「そなた、戦わぬのか……?」

「そんなご冗談を! お客様に手を上げるだなんてとんでもない!」


 その姿で言われると調子が狂う。


「お客様、何かご命令を。私は役目に飢えています」

「ここの中枢に行きたい」


 これは違うな……。

 これは我が戦い続けてきた円環の騎士ではない。

 まるで、操り人形のような……。


「喜んでご案内いたします」

「いらんっ、道順だけ教えよ!」


「かしこまりました。アガルタの中枢は、この道を前進した先の隔壁の向こう側にございます。隔壁の解除には、管理者権限が必要となりますので、パスコードのご用意を推奨いたします」

「うむ、左様か」


 なんなのだ、ここは……。

 これは、我を中枢で迎え撃つという意味なのか……?

 ええい、まだるっこしい!!


「お前は戦わぬのか……?」

「そういった行為は禁じられております」


「戦わぬ円環の騎士もいるのか……。あいわかった、世話になったな」


 我は観光にきたのではない。

 襲撃にきたのだ。

 我は翼を羽ばたかせ、螺旋状にうねる道を進んだ。


 騙されたのかと思ったが、隔壁とやらは螺旋を7周した場所に存在した。

 我はその金属製の分厚い隔壁を3度蹴り、生まれた亀裂を両手で引き裂いた。


 隔壁は厚さ50センチ近くもあった。

 隔壁の向こうには新たな隔壁と、全てが円環の騎士で構成された軍勢が待っていた。


「ククク……そうではなくてはつまらぬ。さっきのお人好しのように、戦う気はないなどと言うなよ?」


 我が言葉を放つと、巨大な円卓に座すその軍勢は一斉に立ち上がって剣を抜いた。


「ここにたどり着こう者がいようとは。お前は……人間、なのか……?」


 最も荘厳な鎧をまとった騎士が我に失礼な質問をした。

 そやつだけは剣を装備していなかった。


「否。我をあんな虫けらと同じにするな」

「ならば、神族、か……?」


「翼と尾の生えた神族がどこにいる!」

「ならば――」


「我は竜族!! 貴様らへの憎悪が生み出した、新たなる竜族よっ!!」


 騎士たちが一斉に剣を抜いた。

 竜族に隔壁の内側に入り込まれたのだ、当然であろうな。


「竜族は邪法を用いるほどに堕落したか……。だが責められまい。どうやってここに渡ったのかはわからぬが、確かにここに至ったのだからな」


 こやつは我ら竜族のことを知っているようだ。だが――


「左様、我はここに到達した! 後は貴様ら倒し、欲深き円環に闇をもたらすのみよっ!」


 だが我にはどうでもよいこと。

 我は命をかけて陽動をかけてくれた仲間たちに、ただ報いるのみ。


「私はリグゥイン、円環に敗れし者のなれの果て。厚かましくも竜族の後継者を名乗るのならば、私たちを倒して証立てるがよい」

「望むところよっ、円環の奴隷ごときがっ!」


 我は円環の騎士どもを迎え撃った。

 相手が多いと竜の姿はかえって不利だ。そもそもここは狭い。

 我は片っ端から片付けてゆくことにした。


「どうした、傲れる竜よ?」


 だが、できなんだ……。

 そやつらは通常の円環の騎士とは別格の精鋭中の精鋭だった。

 我の方が上回っているはずなのに、トドメを刺そうとすると逃げられる。


 リグゥインに限っては、我の全力の拳を受け止めるほどだった。


「何を驚いている? 竜族の拳を受け止める者が、そんなに不思議か?」

「な、なんじゃぁお前はーっっ?!」


「考えてみるといい。竜族の拳を受け止められる者が、何者であるか」


 リグゥインが動きを止めると戦況がだいぶ楽になった。

 円環の騎士の各個撃破が可能になった。


 それにしてもこやつら、強い……。

 まるで同郷の――同郷の仲間たちのようだ……。


 同郷の竜族たちもまた、このような速く強く粘りのある戦士たちだった。

 能力では我が優れているはずなのに、経験の差に幾度となく苦戦させられた。


「まさか……」


 まさか、こやつらは……。

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