・総力戦:オーリオーンの闇計画 - 死なないで -
欲深き円環との総力戦は激化の一途をたどった。
昼夜問わず絶え間なく攻め上ってくるエーテル体を、我らザナーム騎士団および、彼らアルバレア軍は撃退した。
不定期に届く手紙から予想するしかできんが、仲間たちが活躍する姿が我にはありありと見えた。
我が発破をかけてやった諸国もまた、それぞれの土地での追撃戦を始めた。
エーテル体は何がなんでもアルバレアを陥落させ、ザナーム騎士団を排除すると共に、マナ鉱石を確保したいようだ。
敵が足止めの軍勢を残しては、諸国に駆逐される姿を、我は天空から見下ろした。
苦戦しているところは、少し手伝ってやったしたかもしれんな。
「む、今度の折り鶴はでかいな……」
見下ろすばかりで退屈していた我の元に、またあの折り鶴が届いた。
我はそれを分解し、内側の手紙に目を通した。
――――――――――――――――――
パンタグリュエルが新しい未来を見ました。
新しい予知には私たちの勝利と、新たなる秩序の誕生が映し出されていました。
これまでの予知の中で、最もマシな未来と言えるでしょう。
しかし私たちはまだ勝ち取っていません。
オーリオーンの闇計画を成就させなければなりません。
ザナームの参謀ミルディンとして命じます。
竜族の呪詛より生まれし復讐の刃よ、愚かな彼らの本懐を果たしなさい。
今こそ
行きなさい。そして必ず生きて帰ってきなさい。貴女が死んでしまったら私、泣いてしまいます。涙で一生立ち直れなくなってしまいます。
私は紙の寄代。承認なく子供を残すことなど許されない存在。
私にとって貴女は我が子同然です。
ファフナ、貴女が失敗しても構いません。
どんなことよりも、生きて帰ってくることを優先しなさい。
円環の瞳なんて穿たなくていいから、死なないで。お願い。
――ミルディン
――――――――――――――――――
「ふ……ふぇ……、ふぇぇ……っ」
な、なんじゃ、この士気の下がる手紙は……。
かつて死ねと言った口で、今度は作戦を放棄してでも生きろと言うか!!
我は手紙を焼き払った。
これから我は死地におもむくのだ。
欲深き円環の中枢に乗り込み、やつらの瞳を穿つのだ。
「なんじゃ……なんじゃぁこの手紙はーっっ!! ふじゃけおってっ、しゃいごのっ、しゃいごのしゃいごでっっ、こんな器の小さいわがままを言うなバカ者ーっっ!!」
我は創られし命。
我は竜族の呪詛そのもの。
こんな命令、母様がお望みになられるはずがない。
ヘタレおって……。
最後の最後に、ヘタレおって……。
我だって母上を悲しませたくないわ……。
生きて帰って、我はパルヴァスの有精卵を抱くのだ……。
そう……パルヴァス、パルヴァスだ……。
「まあよい……我には、コルヌコピアの加護がある……。パルヴァス……そう、我がここで死ねば、パルヴァスはミルディンに、独占され……ぬ、ぬぅぅぅぅんっっ?!!」
そもそも、おかしいではないか……。
母親を名乗るなら、娘が狙っている男にちょっかいをかけるとか、おかしいではないか!!
何を考えておるミルディンッ!
ぬぁぁぁっ、思い出したら無性にイライラしてきたぞっっ!!
我が死んだら、ミルディンとパルヴァスが傷を舐め合うことになるではないか!!
死んだら出汁にされるとか、我は水槽のカニかっ!?
「母上に独り占めはさせんっっ!! 死んでたまるものかぁぁーっっ!!!」
我はパンタグリュエルの予言により知り得ることになった天空のまた天空の座標、遙か空の彼方を見上げた。
円環よ、そなたは我とパルヴァスのハートフル子沢山物語の前座に過ぎん。
竜族の復讐!? 世界の救済!? そんなものこの我の知ったことかっ!!
「消えよ、欲深き円環!! 我とパルヴァスがさらにイチャイチャせんがためにっっ!!」
我は総力戦の中心ならざる真の決戦場。
円環の瞳を目指して天空のまた天空へと昇った。
感謝するぞ、ミルディン!
我は竜族の妄執から今解き放たれ、欲望の徒となったのだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます