・エピローグ:そしてパンツは守られた 1/3
我は我の知らぬところで、震天動地の大事変を引き起こしていたようだ。
我らが円環の瞳と名付けたあの巨大構造物は、ただの偵察基地ではなかった。
あれは欲深き円環が、各地のエーテル体を運用するために存在していた。
我はそれを天より叩き墜としたのだ。
「さすがはミルディン! それでこそ我らザナームの参謀よ!」
「いえ、想定外の展開になりました……。先の計画の修正に、しばらく頭を悩ませることになりそうです……」
「ナハハハハッ、全て計算通り!! そう居直ってしまえっ!!」
「不用意な嘘は好きではありません。真実をいたずらに遠ざけてしまいますから……」
エーテル体は統制を失った。
特に索敵能力が極端に下がり、奇襲に弱くなった。
特に罠が有効だ。
やつらは獣にも劣る群れに成り下がった。
「まあよいではないか、我らは勝ったのだ。ザナームは世界を救ったのだ」
「時々、私は貴女の愚かしさが羨ましくなります……」
「愚かで何が悪い。皆愚か者よ!」
ミルディンが頭を悩ませているのは、エーテル体どもの行方だ。
エーテル体どもは各地の戦線を捨て、大陸北部の旧帝国領に集結した。
そこで守りの体制に入るとミルディンは予想していたが、ある日我が偵察に出向くと、城塞ごと軍勢全てがこの世界から消えていた。
我らの勝利だ。
世界は救われた。
めでたし、めでたしだ。
「彼らはいずれ帰ってきます……」
「うむ、全裸の変態男もそう言っていたな!」
「そう、ですからこれはかりそめの平和なのです……。いえ、これで平和になるはずが、ありません……」
「そんなことばかり考えてるから眠れなくなるのだ!」
「私はザナームの参謀です。参謀が計算を違えるわけにはいかないのです」
オーリオーンの闇計画はちと成功し過ぎた。
我らの計画は世界の勢力図を書き換えてしまった。
魔軍という共通の敵が消え、魔軍という国境の壁がなくなった。
人間どもはいずれ、つまらぬ縄張り争いを始めるだろう。
「ミルディン、我らザナームはこれからどう動く? 本国に帰り、再び隠遁する道もあろう」
そうなったら我はパルヴァスと共にこのオルヴァールに残ろう。
あの愉快な芋将軍も付き合ってくれるであろうな!
「そのことですか……」
「去った軍勢のことは後で考えればよい。今はすぐそこの未来を考えようではないか」
我がそう言うと、いつだって考え過ぎのミルディンが不敵に笑った。
さすがは我を構成する母の内一人だ。
我とは頭の出来が違う。
「本国の返答次第ですが、私たちも地上の陣取り合戦に加わります」
「おおっっ、おおおおっっ!!」
「円環に滅ぼされた北方を掌握します。……竜族はもう、呪いによりこの世界には帰れませんが……」
「よい、やつらも満足であろう。十分とは言えぬが、我らが怨敵に一矢報いたのだ、喜んでいるはずだ」
我ら竜族は強過ぎた。
強さゆえに傲慢となり、人間に呪いをかけられたとも言えよう。
「ファフナ、これからも私に力を貸して下さい……」
「窮屈なここを出るというなら我も賛成だ。パルヴァスも高い空の下がよいだろう」
「では、滅びし都への植民の方向で、本国を説得しておきます……。それはそうとファフナ、こちらへ……」
「む、なんじゃ……? ぬぁっ、何をするっ!?」
「これは老婆心からの言葉ですが、男の子を振り向かせたいなら、髪くらいはちゃんとしなさい」
「やかましいわクソババァッ、いちいち母親づらするでないと言っておろうっ!」
「では彼は私が貰います」
「んなぁっ!? な、なぜそうなるっっ?! パルヴァスは我の物だっ母上には渡さんっっ!!」
「ふふふ……。母上でなく、たまにはお母さんって、呼んで下さい……」
「断るっっ!!」
いずれ円環は再び帰ってくるであろう。
それが明日か、1年後か、あるいは遙か1000年後かはわからない。
我はミルディンの気晴らしに髪だけ整えさせてやってから、愛しきつがい殿の笑顔を求めてオルヴァールの空に帰った。
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