・総力戦:オーリオーンの闇計画 - 神の雷 -
・芋将軍
襲撃前夜、外交使節として多大な貢献をしてくれたパルヴァスは退去を命じられた。
ここから先は総大将たる自分が新たな語り部となろう。
アルバレア国は今回の事態を秘匿することなく国民に伝え、徹底抗戦を訴えた。
さらにザナーム騎士団の存在も明かし、これは贖罪の機会でもあると国民を奮い立たせた。
どこまでミルディン殿が糸を引いているのかわからないが、これが恐ろしいほどにハマったっす……。
滅亡寸前の窮地に消えたはずの異種族が現れて、援軍を約束してくれたとあっては、こうなるに決まっていたっすよ。
アルバレア国は最前線での防衛を放棄、この都に全国民、全兵士を集結させ、決死の防衛体制に入った。
「ミルディン殿、まだっすか……?」
「まだです」
「だけどミルディン殿、エーテル体の侵攻が始まってるっす! ほら前に出て見るっすよ! エーテル体だらけで青い大火事みたいになってるっす!」
ここは都の防壁。
その正門上部にある小さな踊り場。
現在、夜。
防壁上には兵士たちがひしめき、青ざめた顔で迫りくるエーテル体を注視している。
「まだ早いです。援軍召喚の寸前まで、ここを陥とせると勘違いさせなくてはなりません」
自分には参謀なんて絶対無理っす。
前線で被害が出ようとお構いなしで、敵を引き付ける根性が自分にはないっす。
もう敵は目と鼻に先に迫っていたっす。
そこにアルバレア軍指揮官の号令が上がって、ロングボウ使いが射撃を始めた。
剛弓の爆ぜるような音が辺りにとどろいた。
威力があっても、あまりに敵が多すぎて焼け石に水いったところだった。
それから敵との距離が縮むにつれて、短い弓の音が混じり始めた。
魔法の光がエーテル体の群れに飲み込まれていった。
自分は何もできずにそれを見守った。
押し寄せる青い波を波打ち際で押し止めようとするかのような、絶望的な抗戦だった。
「き、きたっす!!」
押し止めること叶わず、ついにエーテル体は防壁にたどり着いた。
エーテル体は数にものを言わせて壁を這い上がり、防壁上の剣士との交戦に入った。
「ま……まだっすか!?」
「まだです」
「じゃあちょっと、手伝ってきてもいいっすか!?」
「ダメです」
「なんでっすか!?」
「もう少し、あの辺りの密度が増えてからでないと、絶好の機会とは言えません」
助けに行きたい。
しかし助けたら計画が台無し。
「大将なんて自分には向いてないっす……。最前線で暴れ回りたいっす!!」
エーテル体に斬り殺されるアルバレア兵を無数に見た。
味方が倒れると増援は負傷者を踏みつぶしてでも防衛線に加わり、倒れるまでよく戦った。
倒しても倒してもはい上がってくる怪物の群れに、恐怖しない者はいなかった。
「……まあ、こんなものでしょうか」
「おおっ、いくっすかっ、ついにいくっすか!?」
「はい……。ですがまずは、私の手兵から……」
「ずるいっすよっ、それーっっ?!」
ミルディン殿が前に出るので、自分はその前に立って大盾を構えた。
地平の彼方までエーテル体の青い光がビッシリ!
こんなの武者震いどころじゃ済まないっす!
「副団長ミルディンの名の下に命じる……。いでよ、忘れられし古の軍勢……。邪悪なる契約を断ち切る刃…………ザナームッッ!!」
ミルディンは妖精たちを呼んだ。
魔法陣から光が浮き上がり、それが100体を超える妖精たちの魔法兵部隊に変わった。
「呼んだかい、ミルディン?」
酒場のママ、ミルラさんもそこにいた。
「トールサンダーを撃ちます。支援を」
「なんだい、いきなり全力かい……。こりゃ後が思いやられるねぇ……」
「ザナームの地上への復帰祝いです。このくらいの花火、当然でしょう……」
「あっはっはっはっ、いいこと言うじゃないかい……。よしきたっ! アンタたち、一発ぶちかますよっっ!!」
ミルディン殿は超特大雷魔法トールサンダーを妖精たちと力を合わせて詠唱した。
すると黄金に輝く雷球が天に現れ、その雷球は辺りをまぶしく照らし上げながらも加速度的に成長していった。
雷球が大きくなればなるほどに、それは戦士たちの勇気とときの声となる。
まだ撃ってもいないのに、ミルディン殿は戦場を支配してしまった。
自分はミルディン殿の才覚を甘く見ていた。
アルバレア兵は勝利の女神であるかのようにミルディン殿を賞賛し、彼女はそれを気にも止めずにこう言った。
「我らはザナームッッ!! 円環を断ち切る刃よ、神の雷よ!! 邪悪なる者を焼き払え、トールサンダーッッ!!」
エーテル体の密集地点、城壁から50メートルほどの座標に、ミルディン殿は神の雷を落とした。
神族? またまたとんでもない……。
自分の目には戦の神そのものに見えたっす。
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