・飛竜ファフナと第二次イチャラブデート - クリームを舐め舐めしよう -

「ファフナさん、これを見て」

「止めるな、パルヴァス! 我はあのクソ犬を惨たらしく惨殺すると決めたのだ!!」


 ファフナさんは窓から外に飛び出そうとしている。

 そんなファフナさんの隣に駆け寄って、鼻先に銀の鱗を突き出した。


「……ッ?!」


 たったそれだけでファフナさんの脱走が止まった。

 たったそれだけでファフナさんがカチカチと歯を鳴らし始めた。


 膝はガクガクと情けなく震え、彼女の視線は白銀の鱗に釘付けになっていた。


「はっはわっ、はわわわわっっ?! な……なぜ……? なぜそれをそなたが、持っている……っ?」

「ミルディンさんから預かったんだ」


「お、おのれぇぃミルディィンッッ! こ、こんなっ、こんな奥の手を隠しておっ――ヒッ、ヒィィィッッ?!」


 光の加減か、鱗がキラリと光った。

 たったそれだけでファフナさんはすくみ上がってしまった。


 鱗一つでここまで怯えるなんて、いったいどんなお母さんだったのだろう。

 失礼かもしれないけど、健全な親子関係が想像できなかった。


「ごめんなさいごめんなさい、母様もうしませんっ、ファフナが悪い子でした……っ! ……はっ?!」


 虐待を疑わせるほどの怯えっぷりだった……。

 ファフナさんは白昼夢でも見えていたのか、不思議そうに辺りを見回している。


 それから俺と目が合うと、現実を突きつけられたかのようにまた青ざめてゆく。

 どうやら彼女は、この鱗を持つ者に逆らえないようだ。


「は、話し合おう、パルヴァスよ……? それは反則じゃっ、母様の魔力がこもった鱗など、そんなの反則じゃよぉぉーっっ!!」


 どうしてそんな自白をしてしまうのだろう。

 これでこの鱗が、最強の竜ファフナを従えさせる切り札であると証明されてしまった。


 今の俺はお人好しのパルヴァス王子ではなく、マニュアル絶対遵守の鬼畜のパルヴァスだというのに。


「ごめん、俺は勝ちたい。俺はみんなを死なせたくない。ファフナさんにも帰ってきてほしい」

「ひぃっ?! そんな怖い顔で言うなっ、そなたはのほほんとのん気にしておれーっ!」


「ファフナッッ!」

「は、はひっ?!」


「服を脱いでそこに横になれっ!!」

「ひゃぃっっ!!」


 すごい……。

 あのファフナさんが俺の言葉に従った……。

 無理しかない要求なのに……。


「は、母様……我は使命を果たします……この命捧げて、再び竜族の栄光を……っ」


 ファフナさんは命令を遂行すると、次の命令を求めてかこちらを見る。

 ここまできたら、俺だってやるしかない。

 ボウルを持ってベッドに上がった。


「じゃ、行くよ」

「や……イヤ……やっぱり、こんなの……っ、う、うぅ……頼む、見ないでくれ……」


「わかった、じゃあ取引をしよう。俺はこの鱗をそこのチェストに入れる」

「お、おぉ……そうしてくれっ、ぜひそうしてくれっ」


「あと、やっぱりこういうの刺激が強いし、紳士の行いとは思えないから……」

「あ、ああ……っ、止めてくれるのか……っ?」


「目隠しをするよ。ファフナさんは自分でデコレーションして」


 ボウルをファフナさんに渡して、チェストに鱗を入れた。


「目を隠すのか……。そ、それなら、耐えられるかもしれん……。だ、だが、これは……っ」


 チェストの下段に入っている救急セットから包帯を取り出した。

 それを目隠しになるよう頭に巻く。

 ちょっと惜しいけどこれが現実的なラインだ。


「なぜ、このような形で発動する力なのであろうな……。ちと、待ってくれ、我なりに美味しくなるようトッピングしてみよう……」

「ごめんね」


「否、この怒りはガルガンチュアにぶつけよう……。うっ、冷たっ」


 準備が終わるまで、俺はイメージトレーニングをして待った。

 コギ仙人の毛深いお腹の触感を思い出し、雑念を払った。


 相手はワンコ。相手はワンコ。相手はワンコ。相手はコーギーで下着ドロでワンコ臭の塊……。

 俺がこれから口にするのは、ワンコ。


 黒髪が艶やかで、笑顔がかわいくて、胸がすごく大きくて、子供みたいに無邪気に笑う姿に庇護欲を誘われる、ファフナという名のワンコ。


「よ……よいぞ……こい……」

「わかった、行く」


 はいつくばってベッドの上のファフナさんを探した。


「どこを探しておる……っ、こっちじゃこっちっ!」

「え、どっち……?」


「方向音痴かっ! ほれっ、こっちじゃっ、こっちにこい、世話の焼ける……っ」


 ファフナさんが俺の手を引っ張った。

 シルクのシーツは摩擦抵抗が少なかった。

 つまり俺は滑って倒れた。


「ぬああああーっっ?!」


 ごめん、やっちゃった……。

 そう言おうと口を開いたら、異物が口に入った。

 なんだろう、これ。


「や……やぁ……やめ…………」


 弾力があったので本能的に軽く歯を立てた。

 すると声をかみ殺したかのような悲鳴が上がった。


 あ、これって、あ……。

 ごめん、またやっちゃった……。


 脳裏に浮かんだのは、クリームまみれになったコギ仙人のお腹だ。

 体を張って教えてくれたコギ仙人に心から感謝した。


「止めろ止めろ止めろ止めろっっ、待て待て待て待てっっ!!」


 よかった……。

 ここから先は完全にマニュアル通りでいいんだ……。

 俺、マニュアル通りなら、なんだってできるよ!!


「ギャーーーーーッッ!!!!」


 俺はコギ仙人に教わった通りの行為を、目の前のワンコに実行した。


 コギ仙人だって流暢に喋るんだ。

 このワンコが喋っても何もおかしくない。

 抗議。罵声。制止。哀願。悲鳴。


 全てなんでもないことだった。

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