・泥鱗の芋将軍 - ここでオリチャー発動 -

「マニュアル通りになってくれないと困るんだ」

「な、なななっ、何を言ってるっすかぁぁっっ?!」


 俺は振り返らせた彼女に身を寄せて、意外と純情なお姉さんに顔を寄せた。

 だけどお姉さんは俺のディバインシールドの締めくくりから逃げた。


「逃げたらディバインシールドできないじゃないか」

「ぎひぃっ?! マニュアル人間にこれほどの恐怖感じたのは自分初めてっすっ! こえーっ、マニュアル人間こえーっすっ、ギャーッ!」


 このお姉さん、顔や仕草はかわいいのに叫び声に色気がない。

 そんなお姉さんの後頭部を押さえ付けて、俺はディバインシールドを完成させた。


 昼に食べたチーズサンドの風味がちょっとだけした。


「これでディバインシールドできたと思うけど、どう?」

「……は……はへ?」


「終わったよ。どう?」

「…………お、おお……終わったっすか、ほ……っ」


 カチューシャさんは藁ベッドから起き上がり、近くにあった木の端材を取った。

 そしてたまたま目に付いた柱に、端材なんて使わずに頭突きした。


「お、おおっ!! こ、これはっ、おおっ、おおおおーっっ?!」

「ちょっとっ、納屋が壊れちゃうよっ!」


 頭突きの連発に納屋が激しく揺れた。

 建てられたばかりの納屋でなかったら、今頃埃まみれにされていた。


「パルヴァスッ、これで自分の頭をどついてほしいっす!」

「え……」


「今すぐ自分をぶつっす! DV男のように!」

「そういうの、すごく苦手なんだけど……?」


「自分にあれだけのことをしておいてよく言うっすよ! さあこいっすっ!」

「わ、わかったよ……。い、いくよ……?」


「ありがとうっすっ、わくわく! ばっちこーいっっ♪」


 端材を使ったへっぴり腰のアタックが彼女の頭に直撃した。

 するとこっちの手が痺れて、端材が二つに折れてしまった。


「うはーっ、なんすかぁこれぇーっ♪ これあれば、まさにやりたい放題じゃないっすかーっ!」

「喜んでもらえてよかっ、うっ、うぐっ?!」


 肩を掴まれて激しく揺すられた。


「総大将突撃とかいうロマン戦術も仕掛け放題!! 勝てるっ、勝てるっすっ、これがあれば自分ら、彼の国をバッチ守護れるっすよーっっ!!」


 大きなお姉さんがピョンピョン飛び跳ねて喜んでいた。

 跳ねすぎて頭を天井にぶつけてしまっても、完璧なバリアーがもたらす加護がまた彼女を無垢な笑顔にした。


 そんな彼女をもっと喜ばせたいと思った。

 より強力な加護で、彼女の戦いを支えたい。


「カチューシャさん」

「なんすかぁーっ♪ もしかしてー、またどついてくれるっすかーっ♪ 拳でもクワでも千歯こきでも、ばっちこーい、っす♪」


「検証はもう十分だよ。それよりももっとエッチなことしよう」

「ギャ、ギャフッッ?! にゃ、にゃにゃにゃ、にゃんとぉぉーっっ?!」


 問題は何をするかだ。

 どうしよう。誘っておいて何も思い付かない。

 ここは、そう、足を舐める……?


「後日あらためて、ではダメっすか……?」

「ダメだよ、今この瞬間を逃すとまた恥ずかしくなるじゃないか」


「みゃ、みゃぴぃぃ……っ、か、かかか、勘弁して欲しいっすぅ……っ」


 考えているうちにカチューシャさんが納屋の入り口に逃げてしまった。

 いや違った。それは誤解だった。


「ふぅ……っ、誰かと思えばシルバじゃないっすか……」

「ふっ、お困りかと思ってな」


 納屋を出るとそこにはシルバが座っていた。

 シルバの足下には小さなバスケットが置かれている。


「これを使え、大将!!」

「まさかとは思うけどシルバ、君……」

「覗き見してたっすか? そうなんすか……? 返答を慎重に考えることを推奨するっすっ!」


「ははは、パンタグリュエルとの雑談に飽きてな、少し様子を見にきただけだ。では大将、確かに届けたからな」


 シルバは届け物を残すと、少し先の草むらの中へと飛び込んで消えてしまった。

 バスケットの中にあったのは、ポリポリと美味しそうな棒プレッツェルだった。


「これは、プレッツェルっすね?」


 カチューシャさんがプレッツェルを1本とって、美味しそうにそれを食べ始めた。

 俺も1本取って彼女が食べ終わるのを待った。


「食べないんすか?」

「昨日、シルバと特訓したんだ」


 覗き見はいただけないけど、これについてはGJだよ、シルバ。


「何をっすかー? これなかなかいけるっすねー♪」

「棒プレッツェルゲーム」


「ブフゥゥゥーッッ?!!!」


 もったいない。

 カチューシャさんが口に残っていたプレッツェルを吹き出した。


 ありがとう、シルバ。

 シルバのおかげで俺、マニュアル通りに行動できるよ。

 俺は棒プレッツェルを口にくわえてカチューシャさんに迫った。


「ダメっす、それダメっすよぉーっ?!」

「なんで?」


「なんでも何もっ、お日様の下でそげなことっ、ぴっ、ぴぃーっ?!」


 両腕で×マークを作ってカチューシャさんが逃げた。

 本気で嫌がっているようには見えなかった。


「ここは宝石世界、太陽なんてどこにもないよ。さあ、一緒に棒プレッツェルゲームしようよ」


 プレッツェルを口にくわえ直して、再びカチューシャさんに迫った。

 畑の柵のあるところまで彼女を追い込んだ。


「こ……これなら本番の方がマシっす……。こんな恥ずかしいこと、武人である自分が……くっ、くぅぅ……っ」

「俺たちの行動一つだけで、救われる命が何百、何千と生まれるかもしれない。武人なら覚悟を決めて受け入れて、カチューシャさん」


 我ながら乱暴でずるい言い方だと思った。

 けどカチューシャさんは次の戦いで総大将を任される立場だ。

 そこまで言われては、もはや彼女も覚悟を決めるしかなかった。

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