・遠慮なく舐め舐めするがよい(犬)

 ラケシスさんは手厳しいけど、俺はコギ仙人を信頼している。

 今日だって俺が困っているところに颯爽と、まるで遠くから見守っていたかのように現れてくれた。


 そんなコギ仙人を信じて俺は自室の扉をノックした。


「グルルルッ、遅いぞい! ノックなどよい、早く入ってくるのじゃ!」

「あ、待たせてごめんなさい……」


「いちいち謝るとか真面目かっ! とにかく早くくるのじゃ、溶けてしまうぞい!」

「へっ、とける……?」


 よくわからないけど準備万端みたいだ。

 俺は扉を押し開いて自分の部屋に帰った。


「……あれ?」


 だけどコギ仙人の姿が見当たらない。


「コギ仙人ー? どこー?」


 まさかと思い下着の入ったタンスを開けてみても、コギ仙人はそこにもいなかった。


「そんなところにおるかーっっ! お前、ワシをなんじゃと思っておるんじゃ……?!」

「ご、ごめんなさい……。仙人は下着ドロだって、しつこく言われたから……」


「なんと失礼な……」

「だよね、ごめんなさい」


「ワシは下着ドロなどではないぞい」

「やっぱり! よかった……」


「キュゥーン♪ ふと我に返ると、誰の物とも知れぬ使用済みパンツをくわえていることも、ままあるが」

「え……っ」


「無意識じゃ。決して意図してやっているのではないぞい。無意識が悪いのじゃ……」

「え、ええっと……」


 どうしよう……。

 さすがにこれはフォローできない……。


「お、俺はそういう経験とかないかな……」


 残念だけどコギ仙人は、犯行の記憶が記憶ないだけの立派な下着ドロだった……。


「ワヒョヒョ、人には到底わかるまい……。これぞワンコの宿命よ……」

「うちのシルバはそんなことしたことないよ」


「なんじゃと!? それは犬としておかしいぞい!?」

「シルバは誇り高き狼だからね、犬とは少し違うんだ」


 それよりどこから喋っているのだろう。

 そう思いながら広い室内を見回す。


「ここじゃここじゃぞい」

「だから、どこー?」


「これぞ灯台もと暗し! 自分のベッドを見るがよいぞい!」

「あっ、いた! って、え…………?」


 コギ仙人が俺のベッドでだらしないお腹を出してひっくり返っていた。

 股間にはシルバにはある男の子象徴がなく、そしてそのお腹には――


「な……何を、やっているの……?」

「わっふん♪ ワシ、なかなかどうしてセクシーじゃろぅー?」


 コーギーのピンク色のお腹に白いクリームのようなものが塗りたくられていた。


「え……? え? え、ええええ……???」


 クリームさえなければワンコ好きを魅了して止まない素敵にだらしないお腹だった。


 ああ、なんて短い足だろう。

 これ見よがしに自分からお腹を見せてくるなんて、これが下着ドロわかっていてもたまらない。


 そんなカワイイ生物に、あろうことか生クリームが塗りたくられて全てがぶち壊しにされていた。


「さあ、遠慮なく舐め舐めするがよい……」

「え……っ」


「さあっ、さあさあさあさあっっ!」

「え、ええええー…………」


「これぞ、究極エッチ! 雄ならば誰もが焦がれるクリーム舐め舐めプレイというやつよ! さあこいっ、我が弟子よ!」


 これが、究極エッチ……?

 大人の恋人たちは毎晩、こういうことをしているの……?

 こいと言われても、これはさすがにちょっと……。


「えっと、ごめんなさい……嫌です……」

「何っ!? なぜじゃ!?」


「だって、口に毛が入りそうだし……」

「おっぱいはそういうものじゃぞい!」


 それはワンコの世界の話じゃないかな……。


「それにコーギーって足が短いから――」

「足が短くて何が悪い! むしろこれがプリチーじゃろうて!」


「う、うん……それは認めるけど……」


 お腹に変な物が付いてそうで嫌だ。

 あのお腹は野外のみならず、店の床も擦っている。


「わひょひょひょひょ、わかったぞい? もしや、恥ずかしいのじゃなぁ……?」

「違います……。そのクリームまみれのお腹にむしゃぶりついたら、人間として、終わってしまうような気がするんです……」


 あのクリームの向こうにコギ仙人の乳首がある。

 いったいいくつあるのか、ちょっと確かめたい気持ちはあるけれど、舐めたいかと言えばそれは絶対にノーだ……。


「馬鹿者!! そんな覚悟でファフナとクリーム舐め舐めプレイができるのかっっ!?」

「うっ?! そ、それは……」


 コギ仙人は両手両足を愛らしく折り曲げたまま、俺のことを厳しく叱ってくれた。


「パルヴァスよ、よーく考えるのじゃ。お前の行動一つで、彼女たちの命運、いや、より多くの戦士たちの運命が変わるのじゃぞ?」


 コギ仙人の言う通りだ……。

 ぶっつけ本番でこんなこと女の子にできるはずがない……。


 コギ仙人は身体を張って俺に予行演習の機会を提供してくれている……。

 それを俺は感情任せにドン引きしてしまった。

 そんな自分が恥ずかしい……。


「ほら、ワシの4対飛んで5対あるたわわなおっぱいを貸してやるぞい。さあ、くるのじゃ、弟子よっっ!」


 これは勝つためだ!

 俺たちザナーム騎士団が勝利するために必要なことだ!


 だったら口に犬の毛が入るとか!

 Gがはい回ったかもしれない床に振れたお腹だとか!

 そういうのを気にしている場合じゃない!

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