・しょじょってなに?

 宿に戻るとそこにはオーダーを取るシルバの姿があった。

 最近嫌に店が混むとは思っていたけど、それはザナームが作戦に向けて動き出しているからだった。


 オーリオーンの闇計画が始動すれば、全軍が戦線に投入される。

 戦士たちは訓練に余念がなく、そしてそれはそれだけ自炊をするいとまもないということだ。


 彼らはランチと幸運を必要としていた。


「おお帰ったか! 助けてくれ、大将……!」

「手伝ってくれてたんだね、ありがとう、シルバ! 偉い偉い……」


「クゥン……撫で撫では大歓迎だが人前では止めてくれ大将、俺が甘えたがりのようではないか……」


 シルバには緊急の仕入れに出てもらい、彼の仕事を引き継いだ。

 昨日にも増して凄まじい来客になったけれど、俺は彼らの生還を願って必死で働いた。


 到底、新しいエッチを研究するゆとりもなかった。



 ・



 夕方前、一階の食堂で疲れを癒した。

 空がオレンジ色になる頃にはママたちが出勤してきて、ここが食堂から酒場に様変わりする。


 その雰囲気の切り替わりがなんだか好きだ。

 街も人も生きているんだって、実感できる。


「パルヴァスってさー、物好きだよねー……」

「ん、そう?」


 ラケシスさんは自分が入れたお茶をお酒用の小ジョッキで飲みながら、ママの来店を一緒に待ってくれた。


「こんだけ働いたのに、この後ミルラママを手伝うんしょー? 正気とは思えなーい……」

「働くのが楽しいんだ。これまでずっと無職みたいなものだったし」


「でっかい別荘に閉じ込められて接待生活だっけー。それ羨ましー……私、そっちがいー……」

「はは……最初の数年はそうかもね」


 疲れでそれっきり会話が途絶えると、俺は背筋を伸ばして両手を組んだ。

 具体的にどうエッチをすればいいのか、自分で考えないといけなかった。


 コギ仙人が必ず教えにきてくれるとは限らない。

 少しくらい自分で考えないと。


「なになにー? うんち?」

「お……っ、女の子がそんなこと言っちゃダメだよ……っ!?」


「あはははー! あ、そういや王子様だったっけー」

「そっちこそ、神様が宿る身体なんでしょ……」


「私、譲る気ないしー。で、何悩んでんのー?」


 ラケシスさんはテーブルにだらしなく前のめりになって、好奇心の宿った微笑みを浮かべた。

 メイド服からこぼれる胸がテーブルで潰れて、ちょっとだけ目を奪われた。


「新しい作戦が始まるんだ……」

「あ、やっぱり。混み過ぎだしおかしーなーとは思ってたけど、やっぱそうなんだー?」


「うん、そうなんだ。今回もムチャクチャな作戦なんだよ……」

「ふーん……私ら予備兵にはお呼ばれかかってないなー。これでもさー、結構強いんだよー、私らー」


 そう聞いてこう思った。

 もしラケシスさんまで召集されて、戦いで死んでしまったらどうしよう……と。


 だったら相談を恥ずかしがっている場合じゃなかった。


「至急、新しいエッチなことを覚えなきゃいけなくなったんだ」

「おっ、ほぅほぅ……♪」


「ねぇ、ラケシスさん! エッチって、どうすればいいと思うっっ?!」

「さあー? 私処女だしー、そういうのわかんない」


「しょじょ? しょじょ、ってなに?」

「え……。えっ、そこから……っ?!」


 『引く』ってこういう動作なのかな……。

 前のめりになっていた彼女が背もたれまで引っ込んだ。


「ごめん、俺、また変なこと聞いた……?」


 ラケシスさんがジョッキを片手に固まってしまった。

 俺は相当におかしな質問をしてしまったらしかった。


「俺、何も知らないんだ。しょじょって、どういう状態がしょじょなの? 教えて、ラケシスさん!」

「い、いや、その……それは……え、ええええーー……」


 ブロンドの綺麗なお姉さんが顔をしかめて困り果てた。


「おほん……っ、えと、つまり要するにー」

「あ、うん……!」

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