・パンタグリュエルの肩の上 - カリストくんとカチューシャさん -

・??????


- 通信 -


Main-sys

 重要度5の深刻な不具合発生。

 エネルギー鉱石採掘プラントの喪失を確認。

 ケルビム・ドローン1体の喪失を確認。

 未知の勢力の介入を確認。

 脅威名:ギュゲスと定義。

 エネルギー計画を大幅下方修正。


 通達。事業計画の軌道修正のため、各ノードに状況報告を要請する。


B-drone-sys

 クルセイダー・ドローンへのエネルギー供給、困難。

 クルセイダー・ドローン運用率を58%下げることを提案。


C-drone-sys

 運用率42%でクルセイダー・ドローンの再配置を試算。

 17の養殖場の包囲が破綻。

 家畜の反乱の危険度4。

 収穫量が35%まで下落する可能性あり。


Main-sys

 B-drone-sysの提案を採用


 資源プラント:レイウーブとの契約を破棄。

 養殖場:レイウーブとして再定義。


 養殖場:アルバレア、資源プラント:アルバレアと再評価。

 ネゴシエーター・ドローンを派遣し、契約の締結を目指す。


 B-drone-sysに通達。

 養殖場:アルバレア制圧の準備をせよ。


 全ノードに通達。

 脅威:ギュゲスを警戒せよ。

 ギュゲスは神出鬼没。ギュゲスは不可知。全ドローンは重要度4でギュゲスの巣窟を探し出せ。通信終了。


N-drone

 通信が遅れて申し訳ない。みめ麗しいご婦人にお茶に誘われてしまい、すっかり時間を取られてしまった。

 私に母はいないが、きっと母というのはああいった女性を指すのであろう。


 これよりアルバレア国に潜入する。

 通信終了。


 やれやれ、人使いの荒い……。

 また別れ話を切り出さないといけないな……。



 ・



・パルヴァス


 朝、ミルディンさんのところの小間使いが宿を訪ねてきた。


「おはようございます、パルヴァス様。本日はミルディン様からのご命令で参りました」

「おはよう、カリストくん」


 それはカリストという少年の体格をした神族だ。

 実際の年齢はわからない。


「そんな恐れ多い! 僕のことはカリストとお呼び捨て下さい」


 髪は明るいオレンジ色。背丈は俺と同じくらい。

 髪がとても長くてお洒落なので、最初は女の子だとばかり思っていた。


「なら俺のことも呼び捨てて」

「それは……それはダメです! 僕がミルディン様に怒られてしまいます!」


 背丈が近いので親近感がある。

 シルバのことも気に入ってくれているし、カリストくんとは友達になれそうな気がした。


「どうしてもダメ……?」

「ダ……ダメです!」


 シルバと一緒に散歩に行ける友達が欲しい。

 今度何か理由を付けて、散歩に付き合ってもらおうかな。


「それよりもパルヴァス様、ミルディン様とパンタグリュエルがお待ちです」

「え、パンタグリュエルさんも……?」


 ザナームのリーダー・パンタグリュエル。いまだにその存在は謎に包まれていた。


「これよりカチューシャ将軍と共に、お越しいただけますでしょうか」


 カチューシャ将軍ならうちの宿に泊まっている。

 うちに泊まるということは何か大きな作戦に加わるのかなと、勝手に憶測していた。


「もちろんお招きにあずかるよ。カチューシャさんなら2階の57号室だよ」


 宿帳を確かめてそう伝えると、カリストくんは手短なお辞儀をして階段を上がっていった。


「うっふっふっふっふっ……。『僕と友達になってよぉー♪』とか言ってみたらー?」


 宿の1階にはラケシスさんとアトロさんがいて、俺たちの話を立ち聞きしていた。


「そしたらカリストくん、友達になってくれるかな……?」

「はははー、無理じゃなーい? あの子姉さん並みにお堅いしー」

「わ、私はっ、私はいいと思います……! 応援しますっ、すごく、応援してますから……っ!」


「そだっ、シルバを出汁にしてー、散歩に誘うとかー!?」

「いいですねっ、それってほとんど、デートですね……っ!」

「ははは、男同士じゃデートにならないよ」


「なります……っ、私はなると思います……っ!」


 俺にはわからない話が続いた。

 それからしばらくすると、カチューシャさんが目を擦りながら1階に降りてきた。


「はよーっす! ちょっと美少年両手に抱えて処刑場に行ってくるっすー!」


 装備が軽ければ調子も軽い。

 相変わらずのカチューシャさんだった。


「処刑なんてしませんよ……っ!」

「はぁっ、これでも27歳だって、何度も言ってるじゃないか……」

「私っ、美少年はいくつになっても美少年だと思います……っ!」


 アトロさんは何を言っているのだろう……。

 異論はあるけど黙って宿を出た。


 軒先には泥の付いたロバ車が止まっていた。

 農業用にしか見えないけど、実際そうなのだろう。


「自分は歩くからいいっす」

「しかしパンタグリュエルのお住まいまで、少し距離がありますよ?」


「こんなでかい女が乗ったらロバさんがかわいそうっすよ」

「申し訳ありません、オルヴァールには馬車など洒落た物はなく――」

「わっ、うわっっ、ちょっとっ?!」


 いきなりカチューシャ将軍に抱え上げられた。

 彼女は俺を荷台に乗せると、次にカリスト君をターゲットに絞った。


「ほらカリストくんも乗った乗った、行くっすよー」

「ぼ、僕はロバ車の引率――止めてっ、きゃぁっ?!」


 引率のカリストくんと一緒に荷台に乗って、直径13キロメートルしかない球体世界をまっすぐに進んだ。

 パンタグリュエルの住処まで、だいたい4キロメートルほどあるらしい。


「いやー、こうしてると野良仕事を思い出すっすー!」

「将軍閣下が、野良仕事、ですか……?」


「あははははっ、そんなご大層なもんじゃないっす! 辺境の芋将軍と言ったら、自分のことっすよーっ!」


 カチューシャさんがいると、みんなが笑ったり驚いたりするから楽しかった。

 彼女は仲間を守るために一度は投降したけど、実は結構な実力者らしい。


 その実力は、お世辞とは無縁のファフナさんが認めるほどだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る