・こんなことをあの子にしたのですか?
もしここにシルバがいたらきっとこう言うだろう。
『何をやってる大将! 男らしく喰ってしまえ!』
とか絶対言う。
そんな心のシルバの暴論に今夜だけは従った。
ミルディンさんはやり方こそ強引だけど、決して死なせてはいけない人だ。
良心のあるやさしい人の命令だからこそ、ザナーム騎士団の人たちも罪を犯せるのだと思う。
彼女を失えばザナームは大義を失うだろう。
「嫌なら言ってね」
「は、はひ……! お、おねがいしゅましゅ……っ!」
ミルディンさんは堪えるように膝を抱いて、固く目をつぶった。
とてつもなく悪いことをしている感覚が拭えないけど、それでも俺はそのいたいけな少女に手を伸ばした。
彼女がそうしたように、どんな手を使ってでも勝つために。
「ひ……っ?!」
そして布団の中で、コギ仙人に教わった技の数々をミルディンさんに放った。
「こ、こんなことを……っ、あ、あの子にしたのですか……っっ?!」
「ごめんなさい」
「い、いえ、怒っているのではなく……っ、は、はうっ?!」
「あ、痛かった……? ごめん」
「い、いえ……痛かったのでは、なく……むしろ、その……。い、痛く……ありませんでした……」
それからミルディンさんを引き寄せて向かい合うようにくっついた。
相手をコーギーだと思えば、全てなんでもないことだった。
「ぁ……待って……ぁ……?!」
いい匂いのするコーギーの口だった。
コギ仙人が恋しくて、コギ仙人のお尻に触れた。
「ふああああああああーっっ?!!」
「ふぐあっっ?!!」
でもそれはさすがにやり過ぎだった。
羞恥のあまりにミルディンさんは悲鳴を上げて、折り曲げていた膝で狼藉者のミゾオチを蹴り飛ばした。
「も、もう結構ですっっ、あ、ああああ、ありがとうございましたっっ!!」
ミルディンさんはベッドから飛び上がった。
そして部屋の窓を開け放つと、そこから飛び降りるように外へと逃げていった。
俺が痛みから復活して外を確認した頃には、彼女の姿なんて影も形もなかった。
「ぅ……なんだろう、この気持ち……。ファフナさんが俺を追いかけ回すときの感覚って、こんな感じ、なのかな……」
もっと色々しておけばよかった。
品性の欠片もなくそう心に思ってしまうのは、人としての堕落だろうか。
少し前の俺だったら、緊張して彼女に触れることもできなかった。
「ありがとう、コギ仙人……」
それもこれもコギ仙人のおかげだ。
教わったマニュアル通りなら、相手があの伝説の魔獣ゴリラであろうとも、俺はディバインシールドできる。
「それにしても、なんだろう……。本当に、なんだろう、このゾクゾクするような感覚……」
気持ちがそわそわする。
頭が冴えてなんだか眠れない。
それに身体が熱い。
ミルディンさんのことばかり頭に浮かぶ。
「何を内股になっている、大将?」
「わああああああっっ?!!」
「おいおい、近所迷惑だぞ、大将。ん……ミルディン殿は?」
「帰ったよっっ!!」
「そうか、てっきり泊まってゆくのかと――おっとっ、何をする大将っ?!」
おっきなシルバを抱き上げて俺は部屋を出た。
心も身体もおかしくなっていたので、もう1度シルバと散歩に行くために。
「何やら顔が真っ赤だぞ、大将?」
「シルバのせいだよっ!」
「ほほぅ……? ミルディン殿にキュンときてしまったか、無理もない。散歩がてら詳しい話を聞こう」
他に話せる相手もいないのでシルバにさっき起きたことと、自分の身体と心の変化を伝えて、どうすればいいのか相談した。
「大将、それは大人になった証だ」
「俺は元から大人だよ!」
「そうじゃない。肉体的に、大人になった証だ。大将はずっと成長を止められていたからな、急にきたんだろう」
「これが大人……? 大人って、ずっとこういう気分なの……?」
困る……。
このままだと朝まで眠れない……。
なんだか、全身が切ない……。
「う、うむ……落ち着かせる方法もあるが、詳しくは……」
「詳しくは? 教えて、シルバ!」
「い、言えぬ……」
「教えてってば!」
「く、詳しくは……ママに訊け!! 俺様の口からはとても言えん!!」
「そんな、シルバのせいでこうなったんだよ!? シルバがどうにかしてよ!!」
「バカか大将っっ、そんなこと雄同士でできるかっっ!!」
「男同士でも別にいいじゃないか!」
「ぬっっ?! ぬぅぅぅぅっっ、雄羊宮の連中め……!! このくらい教えておけ……っっ!!」
「あ、シルバ! 待ってよ!!」
「勘弁してくれ、大将!! ぬああああ、助けてくれーっ、ママーッッ!!」
いくら聞いてもシルバは教えてくれなかったけど、ママは教えてくれた。
さすがはみんなのミルラママだった。
俺はその晩、ママから自分を落ち着かせる方法を教わった。
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