・過酷な特訓、迫るつぶさな瞳

「パルヴァス、ミルディンから話を聞いたよ」

「ミルディンさんから?」


「ファフナを犠牲にした計画は、ファフナの誕生前からあった。ミルディンが計画し、そしてその計画の実現のためにファフナが造られた」

「つくられた……? それって、どういう意味……?」


「竜、リザードマン、巨人、妖精、獣人、人間。ワシらはいくつもの種族の血を掛け合わせて、呪いの影響を受けぬ個体を作り出そうとした」


 コギ仙人はクゥン……と鳴いて、自分たちの行いを恥じたようだった。

 口調もさっきのふざけた調子と変わっている。


「今のファフナが産まれるまでに、ワシらは数え切れぬほどのファフナを犠牲にした。ワシらが円環に対抗するには、呪いの影響を受けぬ竜が必要だった」

「離宮に閉じ込められていた俺には、とても想像できないよ」


 生き物を合成して新しい命を造るなんて、まるで物語に出てくる邪悪な黒魔導師のすることだった。


「あれ? でも神族さんは? 神族さんは協力してくれなかったの?」

「そこなのだ、パルヴァス。神族だけが血肉の提供を拒んだ。彼らは神の寄代。神の肉体を邪悪な術に使うなど、赦されることではなかった」


「えっと、つまり?」

「繰り返される失敗を前にして、ある神族の女が血肉の提供を訴え出た。それは他でもない、ミルディンだった」


「え、ミルディンさん……っ!?」

「ワシも驚いた」


 神様に我が身を捧げるつもりのミルディンさんがそんなことをするなんて、ちょっと信じがたい。


「ミルディンが血肉を提供すると、今のファフナが母竜より産まれた。それは奇跡の子だった。あの個体だけが、狂いもせず、死にもせず、健康に育ってくれた」


 そうなるとミルディンさんにとって、ファフナさんはより特別な存在になる。

 ミルディンさんはファフナさんの母親のうちの一人になる。


 だからあの時『あの子』と呼んでいたのだろうか。


「コギ仙人――ガルガンチュアさんって、いったい何者なんですか……?」

「ワシか? ワシはただの野良コーギーちゃんじゃ……」


「ただの野良コーギーが、こんな秘密知ってるわけないと思いますけど……」

「パルヴァスよ……」


「はい?」

「ワシはファフナを死なせたくない。捨て駒にする計画を立てたのはワシらなれど、無事を祈らずにはいられないのだ……」


 これがガルガンチュアさんの素なのだろうか。

 姿がコーギーなだけで、そこにいるのは齢を重ねた賢者のようにすら見える。


 ここで頭を撫でたらさすがに噛みつかれるかな……?


「前置きが長くなったな……。では、始めようか、スケベのレクチャーを! ワッホッホッホッ!」

「俺もファフナさんがいなくなったら寂しいです。どうかお手柔らかにお願いします」


「ありがとう……。おお、先にこれを渡しておこう。これは、マージーカルーメーガーネー!! という品じゃ」


 ええと……。

 なんでいちいち発音を伸ばすのだろう……。

 そういう名前の道具なのかな……?


「このマージーカルーメーガーネー!! があれば、スケベの効果を即座に確かめることができることじゃろう」

「かけると鑑定魔法を使えるってことですか?」


「ワゥーンッ、そんなところよ。ではそこの草むらに横になるのじゃ」

「はい、横になるんですね。でも何をするんですか?」


「これからワシがすることと、同じことをファフナにするのじゃ」

「わかりました!」


「もっとセクハラまがいの……驚かせるやつがワシは好きなんじゃが、最初はこんなもんじゃろうて」


 草むらに仰向けになると、コーギーそのままのコギ仙人が隣に寝そべってきた。

 相手がコーギーだとちっともエッチじゃなくて、とても安心だった。


「ワフッ、こちらを向け」

「はい、こうですか?」


 横寝になると、コーギーが身を寄せてきた。

 か、顔が近い……。

 ワンコ臭い……なんか生臭い……。


「クゥン……ファフナはああ見えて純情じゃ」

「いやそれはないと思いますけど……」


「それがあるのじゃ! あれは産まれてまもない個体でな、ガキンチョじゃ、クソガキじゃ、世間を何も知らん!」

「あんな大きな子供がいるとは思えません」


 そう主張すると、コギ仙人に鼻先を舐められた。


「よいか、ファフナは迫る時は大胆なれど、逆に迫られるとクソザコトカゲじゃ」

「そうなんですか……?」


「うむ。だからこうして……それからこうして……こうして、やるのじゃ。わかったか?」


 つぶらな瞳をしたコーギーに積極的なアプローチをされた。

 しかしコーギーにされても、ちっともやらしくならなかった。


 むしろそんな短い手足でされると愛らしい。かわいらしい。たまらない。

 俺はコギ仙人のすることに悶絶した。


「ワゥン? 何をニヤニヤしておるのじゃ。覚えたか? こうして、こうして、こうして、こうしてしまえっ! そして顔を近付けて……隙あらば耳元に――」

「生臭いです。鼻息荒くてくすぐったいです、ふ、ふふ、ふふふ……っ、あはははっ!」


 笑い出すとコギ仙人が耳元から離れた。

 愛らしい白と焦げ茶のワンコが怪しむような目で俺を見ていた。


「もしやお前……ワンコが大好きじゃな……?」

「うん、大好きです。コギ仙人、かわいい……っ」


 これと同じことをファフナさんにするなんてとんでもない。

 でもコギ仙人がこうして実践してくれるおかげで、なんだかやれそうな気がしてくる。


 俺はコギ仙人を抱き寄せて、仰向けになってお腹に乗せた。

 気になって止まなかった大きなお尻をまさぐった。


「や、止めろ……っ、こう見えてワシは、雌じゃ……っっ!!」

「はぁぁ……皮だるだるでやわらかーい……。はぁっ、癒される……」


「キャウウーンッッ!! 離せっ、離せえええーーっっ!! 尻を揉むなぁぁぁーっっ!!」

「へへへ……うへへへへ……ああ、気持ちいい……」


 たっぷりと堪能させてもらってから、謎のスケベ仙人ことガルガンチュア様と別れた。

 今夜ファフナさんが宿に帰ってきたら、この丘への散歩に誘おう。


 彼女は世界のために命を捧げてくれる。

 救いのないこの世界を変えようとしてくれている。


 だったら俺だって、エッチなことを恥ずかしがってなんていられない。


 このペッティングの術で俺も一緒に戦う。

 きっとできる。


 相手は人ではない、ワンコだ!

 ワンコだと思い込めば、なんだってできる!


 ありがとう、コギ仙人!

 俺、エッチをがんばるよ!!


 ああ……だけどそれにしても、さっきのあれはいい鳴き声だった。

 いいお尻だった。


 今思い出すだけでも……。


『あっ、ダメッ、そこはダメじゃ……っ、アォッ、アォォーンッッ♪』


 最高に、モフい……。

 コギ仙人のだらしないお尻の感触とぬくもりがまだこの手に残っている……。

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