・スケベこそが勝利の鍵である
今から7日後、ザナーム騎士団は約500年間の潜伏を止めて、表舞台に返り咲く。
これは不意打ちだ。最初にして千載一遇のチャンスだ。
「エーテル体にもご飯が必要です。私たちの調べによると、彼らはマナ鉱石を主要なエネルギー源にしています」
「それ、雄羊宮の魔術師から聞いたことある。エネルギー源が具体的に何かは、わかっていなかったはずだけど……」
「ある王国がそのマナ鉱石を採掘しています」
「エーテル体の餌を? なんのために?」
「彼らは円環との契約を結んだのです」
また契約だった。
何につけてもいちいち契約を結ぼうとするところが、円環というのはなんだか変な神様だ。
「彼らは魂の取り立てを免除してもらう代わりに、マナ鉱石の採掘と、隠れ住む私たちの捜索を誓いました」
「……エーテル体って、ご飯がなくなるとどうなるの?」
「実体を保てなくなり、史実上、この世界から消えていなくなります」
「凄い……! そんな方法で、あいつらを倒せたんだ!?」
「ただそのマナ鉱山は、人間の領土の中の、地中の奥深くにありまして、軍隊による作戦では破壊できません」
「人間の領土の中か……」
もし人間の領土に攻撃をしかけたらどうなるか?
人間全体に宣戦布告するようなものだ。
「どうするつもりなの?」
「はい、残念ですが……。ファフナには死んでもらいます」
「え、ええええーーっっ?!!」
「ファフナも承知しています。命を捧げてでも、彼女はマナ鉱山を破壊し、反撃のチャンスを作り出してくれるでしょう」
「ファフナさん、死に行くの……?」
「はい」
そんな……。
昨日知り合ったばかりなのに、どうして……。
「もし彼女を哀れむなら、有精卵の1つくらい、作ってあげてはどうですか?」
ファフナさんが超強引で肉食系なのは、これから死の作戦に挑むからだった。
「卵さえ残るならば、彼女もこの世に思い残すこともないでしょう」
「そんな、そんなのって……」
俺が想像していたよりもずっと、この戦いは過酷だった。
自称最強の戦士を初手で捨てるほどの価値がこの作戦にはある。
そういうことになるのだろうけど……。
「俺、何か力になれないかな……? 最強のドラゴンを最初の戦いで捨てるなんて、おかしいよ……」
間違っていると思う。
どんなにその作戦が効果的でも、一番強い戦士は死なせてはいけない。
それをやったら後がなくなる。
「はい、でも他にないのです。このカードは、初手に切らなければ二度と使えません……」
「そんな酷い作戦ないよ! こんな作戦、誰が――あ、いや……」
ザナーム騎士団の参謀なら目の前にいた。
この作戦を考えたのは彼女だ。
俺が怒ると彼女は喜んだ。
「シルバとの出会いは幸運でした」
「うむ、そこで我々の出番というわけだ、大将」
「え、お、俺たち……?」
「パルヴァス……私、あの困った乱暴者のことが、そんなに嫌いではありません……。卵から孵った頃から、あの子を知っています……」
「俺たちが何か助けになれるの?」
「はい、お願いします、パルヴァス……」
うつむきながら彼女は両手を祈るように組んだ。
俺は幸運の女神コルヌコピアの化身だ。
少なくともレイクナス王国ではそういうことになっている。
「ファフナに……私の命令のままに死に行くあの子に……。どうか、スケベなことをしてやって下さい……」
「は…………はい……?」
ス・ケ・ベ……?
SUKEBE……?
スケベって今、言った……!?
「パンタグリュエルが予言したのです! スケベこそが、勝利の鍵であると……っ!」
「ごめん、意味がわからない」
意味がわからないけど、そのパンタグリュエルとミルディンさんはスケベが勝利の鍵だと確信していた。
「だって、キスするだけでこれだけの奇跡が起きるのですよっ! もっとっ、色々試してみる価値、あると思いますっ!!」
「ええ……そうかなぁ? あるかなぁ……?」
「ありますっ! ファフナには話を通しておきますっ、ですからぜひ、ファフナにスケベの試行錯誤をお願いしますっ!!」
「えー…………」
なんて答えればいいのかわからなかった。
スケベ行為が奇跡を起こすなんて、そんなの認めたくなかった。
混乱させられた俺は話をうやむやにして、なんか疲れてしまったので、宿へと引き返していった。
スケベをしてくれと言われても、具体的にどうすればスケベになるのか。
思春期を幽閉に奪われた俺には、そういうことは全くわからなかった。
どこかにスケベを教えてくれる人、いないかな……。
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