・さよなら監禁生活、こんにちはキス魔 2/2
ミルディンさんから強奪作戦の一部始終を聞いた。
竜に運ばれてここにいると言われても、なかなか信じがたかった。
「シルバとの出会いは私たちにとっても幸運でした」
「あの、なんで俺の頭を、撫でるの……?」
「いえ、特に意味は」
「できたら、止めてもらえるかな……?」
「……気乗りしません。お菓子、食べますか?」
「俺、子供じゃないです……」
俺の主張をミルディンさんはおかしそうに笑った。
「私から見れば貴方は子供です。いい子、いい子……」
「止めて下さい……」
なんでこんなに気に入られているのだろう……。
ミルディンさんは幼い子供でもかわいがるように、やさしい顔でこちらを見ている。
「これはあの子、ファフナが入れ込むのもわかります」
「ファフナ、俺をさらった竜、だっけ……?」
返事はなかった。
ミルディンさんは頭を低くして、俺の唇を凝視し始めた。
「唇を重ねると、成長の限界から解放されるというのは、本当ですか?」
「えっ!?」
なぜ、今その話を……?
「実証してもかまいませんか?」
「実証……。す、するってことっっ!?」
「はい。300年前に成長がほぼ頭打ちになりまして、ご協力願えませんでしょうか」
「え、いや、でも……」
こんなに綺麗でかわいい女の子と、愛情もないのに唇を重ねるのは、抵抗が……。
恐る恐る様子を見てみると、好奇心に輝く瞳が唇へのガン見をまだ続けていた。
「私ではなく、殿方がよろしいですか?」
「やだよっ?!」
「実の弟を愛していると、シルバから聞き及んでおります」
「いや家族としてねっ!?」
ヘリートと父上が少し心配だ。
王家の人間はパルヴァス王子を駆け引きの道具にしていた。
「では奪います。失礼……」
「えっ、いや、待っ――」
「ん……っ」
「――?!!!」
自分より肉体的に少し年上のお姉さんに、強引に唇を奪い取られた。
なんか、ちょっと泣けた……。
弟や、屈強な武人に尊厳を破壊された日々が、綺麗な何かで上書きされるかのようだった……。
民に申し訳ない。
けど、逃げて正解だった……。
まるで洗脳が解けるかのように、頭の中がスッキリしていった。
長い間、自分が抑圧され、それにより洗脳されていたことに気が付いた。
「ありがとうございます」
「こ……こちらこそ……」
「では再検証、よろしいでしょうか?」
「えっ?!」
「失礼します」
「君っ、失礼って言えばなんでも――うぐっっ?!」
検証の後に再検証された。
ガサガサした男の物じゃない、やわらかくて小さな唇がまた押しつけられた。
ミルクのような女の子の匂いと、リンゴのような香水の匂いが鼻孔で入り交じった。
「残念、2回目は効果がないようです……。シルバの報告通り、日を明ける必要があるようですね」
と言いながらも、3度目の検証に入るところが学者肌だと思った……。
それが済むとミルディンさんはやっとベッドサイドから立ち上がってくれた。
「ごちそうさまでした」
「い、いただかれました……」
「ご自宅を用意いたしましたので、シルバの到着をしばしお待ち下さい」
「はい……」
「それと、すぐに限界まで鍛え上げてみせますので、後日またこの行為をお願いします」
「で、でも、ミルディンさんはいいの……?」
とても清らかな雰囲気の人だけど、こういうことに慣れているのだろうか……。
わからない。神族さんの文化はわからない。
ミルディンさんは質問にかわいらしく首を深く傾げた。
「私たち神族は神の寄代。ダッチワイフのようなものだとお思い下さい」
「あの、意味が、わからないんですけど……?」
ダッチワイフって、何……?
「私には魂がないので、遠慮は無用ということです」
いや遠慮してないのは、そっちじゃないかな……。
それに魂がないと言われても、ミルディンさんからは強烈な個性を感じる……。
「あの……これは非合理的な提案なのですが、4回目の検証、よろしいでしょうか?」
「え、ええっ!?」
ベッドサイドから壁際まで逃げると、ミルディンさんが少し悲しそうな顔をした。
これで魂がないなんて嘘だ。
ミルディンさんは自分の唇に指を当てて、どこか物欲しそうにこちらを見ていた。
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