宮前亮太のアクセスミス

あまるん

第1話

 夏の盆地の夕方の暑さに実家の座敷の古いクーラーを対抗させている。蛙の声がうるさすぎて、宮前亮太は友人の声に、もう一度聞き返した。

「VRホスト?」

問いかけながら、冷たい缶チューハイを空けて、座敷にある座布団に寝そべる。

「そ、VRホスト。無職脱出しろよ」

「それって何すんの?」

盆の休みを利用して押しかけてきた高校からの親友に親友の間鍋まなべは、飲んでたビールを置いた。

「ウェブのポータルで客の相手するだけ。アバター同士の話がメインで、客から金が入ればすぐ振込される」

 間鍋はおもむろに亮太の前に廊下に置いていたスーツケースを持ってきた。

「だからさ、しばらく俺の代わりにホストやってくれない?」

 スーツケースを広げながらの間鍋の言葉に、亮太は驚いて思わず起き上がる。

 間鍋が、持ってきたのはハロウィンの仮面のようなVR用のマスクやVRスーツ一式だった。

「代わりにって、アバター引き継ぐってこと?」

 アバターは本人が好きなように設定できるキャラクターだ。

「そうそう。俺のフリして出て欲しいってこと」

 間鍋によるとVRホストというのは、オンライン上のアバターが仮想の店の中で話したり、お酒を飲んだりするだけ。そこでチップをもらう。店というのもVチューバーの事務所のように登録して、コンテンツを借りるものらしい。

「お前のフリとか嫌なんだけど」

宮前の言葉に間鍋は愉快そうに笑った。

「お前のVの時のキャラのままなんだよ。俺キャラ作りできないから」

「え、クロウドってことか?」

 亮太は大学生の頃夏休みの一ヶ月だけ、Vチューバーをやってみたことがある。気だるげで柔らかないかにも乙女ゲーのキャラメイクをしてちょっと人気が出たが、途中で嫌になって辞めたのだった。

「そうそう。昔のFFのクラウドだかをパクったやつ。えぐい課金されてたからいいかなと思って借りてた」

「突然黒歴史を復活させるなよ、それにエグい課金してたのは一人だけだから」

 呆れる亮太に間鍋はすまんと言って笑った。

 間鍋がいうには、引退宣言をして、店長に退店希望を出したがどうしても一人継続希望の太客が諦めきれずに真鍋についてきたがってるとのこと。VRでは店舗とはいってもそこは仮想の空間。そのまま客と引き続き関係を持つホストもいるらしい。

「それが、その客絶対お前好み」

「はぁ?俺の癖を知ってるだろ」

「狐目で胸がデカくて賢くてきついタイプだろ?」

「そうそう、◯神の妲己みたいな…」

「アバターがまさにそれ」

間鍋が見せてくれた客との2ショットは狐耳巨乳の中華ファンタジー系美女だった。

宮前は間鍋のスマホを引き寄せてみた。

「あ、それにクロウドほぼパクじゃん。よくバレなかったな」

美女の隣にいる間鍋のキャラは間違いなく亮太の黒歴史のキャラだ。

グレーの柔らかそうな髪、女性キャラのような顔立ちに金色の目、グレーが濃くなる羽が背中にある。技術の進化で全身のキャプチャーができるようになっていた。

「就職決まるまでのバイトだと思ってさ」

亮太は間鍋の言葉に頷いた。

「しばらく一緒にセッションしてくれるってなら」

間鍋は白い歯を見せつけるように笑った。




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