第6話 イエスキリストこそがこの世の救い主である
野口氏は、教会に通うと同時に、立ちんぼを救うためのNPO運動をもしていた。
野口氏曰く
「イエスキリストのイエスは、誰をも受け入れる「はい」という肯定の意味、
キリストの意味は、救い主。
イエスキリストはこの世の下っ端で生きていた、羊飼いやチンピラ、遊女とも平等に接し、食事も共にしていたのだった。
だから僕も、人を救うはたらきをしていきたい。
しかし、昔から売春や麻薬というと、大金がはたらくので敵も多いことが確かだけどね」
元風俗嬢の過去をもった君江は、その言葉に魅かれ、野口氏の元でボランティアをすることに決めた。
野口氏は、イエスキリストの如く、君江を欲情の目でみることも、分け隔てすることもなく、ごく普通に接してくれた。
君江にとっては、このことは涙ぐむほど幸せなことだった。
ようやく、風俗いや水商売など縁がなかった十代の学生の頃に戻ったみたいだった。
君江は、野口氏と同じクロスのペンダントをすることにした。
これで、野口氏とつながっていられる、元の風俗の世界へは戻ることはないと確信していた。
ちなみに一度でも風俗の世界に足を踏み入れた女性は、また戻っていくという。
体力もなく、風邪もひきやすく、二キロ程度のものも持ち上げることは不可能で、人を見たら、嫌ごとを言う。
特に昼間の世界の女性に対して、深いコンプレックスを敵対心をもっていて、ときには暴力をふるおうとする。
その結果、一時的に昼間の職業に就いても不可能であり、また風俗へと戻っていくという悪循環である。
まさに
(一般女性が)堕ちるつもりか 風俗世界に
(元風俗女性が)戻るしかない もとの世界へ
君江は、三十歳で風俗の世界から足を洗ったものの、これからどうやって生きていったらいいかという不安に歳悩まされていたが、野口氏の信じるイエスキリストを信じていれば、まっとうに生きていけるのではないかという確信をもっていた。
野口氏曰く
「僕達の活動は、常に危険を伴うものだけど、恐れることはない。
常にイエスキリスト様がついていらっしゃるのだから」
野口氏のように、目には見えないが頼れる、委ねるものがあるということは、心強く幸せなことである。
君江は、野口氏に誘われ、キリスト教会に通うことになった。
君江は、教会員から過去のことを聞かれても、風俗嬢であることを隠しはしない。
そのキリスト教会には、そういった過去をもつ女性もいるし、いわゆる前科者の男性も礼拝をしているからである。
キリスト教会は神がつくったものであるから、神から創造された人間は、堂々と過去をさらけだしても赦されるのである。
「覆われているもので現わされないものはなく、隠されているもので、知られないものはありません。
ですから、私が内輪の弟子にだけ伝授した奥義を、今こそ公然と言い広め、伝道しなさい。
そこで、私の友であるあなたがた弟子たちに言います。
体を殺しても、魂を殺すことも何もできない人間を恐れてはいけません。
そんな者たちよりも、本当に恐れなければならない方を、教えてあげましょう。
それは、体を殺した後で、魂を地獄で滅ぼすことのできる力を持っておられる神様です。そうです。この神様を恐れることです」(ルカ12:2-5現代訳聖書)
「しかし、たとい罪を犯した者であっても、自分の犯した罪を離れ、私のすべての律法を守り、公正と正義を行うなら、死ぬことはなく、必ず生きる。
彼が犯した過去の罪はすべて忘れられ、正しい生活によって生きるようになる。
主である神は仰せられる。私は、たとい罪を犯した者であっても、その人が死ぬことを喜ぶだろうか。
彼が悔い改めて、生きるようになることを喜ぶ」
(エゼキエル18:21-23現代訳聖書)
私は、女性の生き直しを願ったと同時に、明日は我が身かもしれないと背筋に悪寒が走った。
人間は、生きているのではなく、神と周りの人によって生かされている。
自分は周りと合っていると思っていたら、周りが自分に合わせ、お神輿に乗せてくれていたということも有り得る。
周りと合わない人や自分にとって都合の悪い人をバカ扱いし、排除していたら、いつかは自分のその報いを受けるときが訪れるだろう。
人間の心身は今は健康だが、いつ壊れるかわからないほどもろい器である。
そして、神から生かされているということは、誰かが自分を必要としているということである。
女性は借金などにより、誰しも一歩間違えれば、立ちんぼになりかねない。
別世界だと思っていた対岸の火事の火の粉は、降りかかるかわからない。
私にできることは、イエスキリストを信じ、身近な人を思いやり、共同して生きること、そして傷つけられても復讐心に至らないうちに、人を赦すことであると痛感した。
今の私は、闇を超えた光の一粒のような一寸法師であると大きな誇りを確信していた。
完
一寸法師は闇か光か すどう零 @kisamatuma
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