三章 第五次大規模侵攻編

第37話 シュナプスイデーとその後

 六月六日を以って、事件名:シュナプスイデーは一段落を見せた。というのも、加害者は出たものの真犯人は謎のままである。そして加害者と同時に被害者は三名いる。『剣』の少年に加えて、グアとルフがその名を連ねていた。

 グアはスイに勝負を挑み、敗北後にシュナプスイデーを注入される。その後に『生ける炎』となったものと推測されていた。また、共鳴するように近くにいたルフにもシュナプスイデーが注射され、『眠れる海』となったと推測されている。ノクス視点の話をするならば、今回その他大勢はシュナプスイデーの毒牙にかかっていないようだ。

 『生ける炎』と『眠れる海』はそれぞれ邪神のの名前である。シュナプスイデーにより、強制的に臨界深度を上げられた。その結果、弍である『炎』と『海』が肆である『生ける炎』と『眠れる海』になったのだ。

 スイとノクスはドローンの中で休憩中であり、二人ともベッドで寝ている。そんな中でも前線にいるローは、未だにマルクトへの帰宅を許されない立場にあった。



「悪いね。しかし、天才であるウェルくんでなければ、一体誰が強制的なリアニマのステータスの上昇なんていう偉業が成しえるだろうか?」

 そして、セイジ元帥はウェルに通話をかけていた。天の眼という監視システムとローの第六感が反応していないというアリバイがあるが、ウェルは疑われざるを得ないような立場にあった。

 SS地区の天才、ウェル。男まさりな言動と髪型の少女であり、専門である余剰次元理論ではローと同レベルの知識量を持つ。多数のシュミレーションや実験などができる分ウェルの方が上手とも言えるほどだ。

 現行の余剰次元理論では魂を主に扱う。と言っても魂の実在を確認したのが流転暦紀元前程度であり、非常に若い学問である。

 何より元はアニマニウムなどという異常なほど人類に益をもたらす万能物質の説明用理論に、超ひも理論がたまたま噛み合った偶然の産物だ。

 余剰次元は10のマイナス35乗程度の非常に小さい次元空間に格納されている。魂はそんな極小空間に存在し、この世界に影響を与えている。

 極小空間に存在しているからといって、それに伴い世界への影響が小さいわけではない。

 その例が熱量変換である。ステージが増すにあたって、異常な火力を生命の次元に落とし込む、あの力は余剰次元に存在する魂からくるものである。

 リアニマの全容は解明されていないが、エネルギーへの変換の効率が最も高い方法で運用できる数少ない技術としてある程度確立している。

 それが、一番活用されている再現性があり、普遍的で科学的なものがアニマニウムだ。別の天空都市「ケテル」からの賜り物のために、完璧な理論はブラックボックスの中に包まれているが、天空流転都市群が発展したのはアニマニウムのお陰である。


 今回ウェルが問題に立たされているのは、実用的な理論の一つの「リアニマ」にウェルが深く関わっているところに依る。

「と言われてもな、元帥。俺はスプライサーのステータスの上昇ができる可能性を見出した論文は出しました。しかしながら、それは決して実用的なものじゃないんです。加えて、それって数週間前の出来事ですよ。早すぎます。買い被ってくれるのはありがたいですが、理論的に考えて流石に無理だと思いますが」

「では逆に、誰がありうると思う?」

「……そうですね。一番怪しいのは、ノクスだと思いますよ?」

「そうよなぁ。ありがとう、ウェル」

 元帥のため息と共に通話が終了する。

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