第28話 ロー視点のドライナイトメア。そして、

 ローはビル群を跳躍しながらも、スイの生存可能性を探っていた。思い出すはドライナイトメア。通称:インサニティヴィジターである。


 七年前の七月九日のことである。


 汚泥の中かと錯覚するほどの悪意の中を走っていた。ツヴァイナイトメア:アンハッピーバースデイからリウムを救助したその足で、悪意の源泉に幼きローは向かう。

 とある施設、アニマニウムで作られたであろう白色の壁を溶解させて中を覗く。階段を上がる。廊下を歩く。部屋のロックを解除する。

 白衣姿の人たちが、無数に映し出されたモニターの部屋で成功を祝っていた。己が名声だと誇っていた。これで富が得られると言っていた。

 そのモニターの中で、壊れまいと未だ頑張る少女が映っていた。元凶など捨て置いてローは走った。ハッキングした時に場所情報も抜き取ってある。ローの全速力なら七分もかからずその施設に着く。その時も少女の敵意が膨れ上がっていた。

 六分後、白色の壁を溶かして、少女の施設に入る。敵意は全てローに向いていた。幸い探知はし易い。

 そして、到着する。見渡す限り、一人以外全ての子供が嘆き、喘ぎ、怒る地獄絵図。見るだけで憤怒が湧き上がる最低な状況に、希望を見出すためにローはここに来たていた。

 しかしながら、少女はローに対しての感情を抱いていたのだ。

 ローはその感情を理解せず、ただ助けるために少女の


 ローも思い出したくもない記憶だが、違いはあった。現在のスイは、地獄で戦闘する気が起き得ないほど衰弱した心理状態。生きる意味を見失っている状況下だ。詰まるところ、生きて何かを果たそうとする強い意志がない。

「なんで憎悪されていたんだろうな」

 「殺さないで」と懇願するノクスを抱えて、狼の王は先を急ぐ。

 そして到着する。毎度、全てが終わってからしか行動できない自分を怒りながら、具現化範囲内に黄衣の王を捉える。

 見れば見るほど、脳味噌を掻き出して洗いたくなるその姿を捉えながら、そのスケール3を上回るほど巨大な狼を具現化して飲み込んだ。

 視界が揺らめいていく。涙は出ない。嗚咽が溢れ出す。

 ローは狂気の泥酔状態で歩いた。

 体力を使い切った傷だらけのスイが倒れている。ノクスは近づいて抱き抱えるが意味は無い。見ればわかる。すぐにでも、スイの魂はこの世界に溶け消えていく。

「ごめん、なさい、ありが、とう、ノ  ク   ス」

 スイは溶け消えた。頭が焼けるように熱い。掻き出したい。ほじくって、そして、

「ロー!」

 声が聞こえた。それでも、意識を保つので精一杯だ。

「殺して!!! 速く!」

 視界は歪んでいる。思考は鈍っている。それでも、希望が金色に光って叫んでいた。頑張っていた。故に、信じた。

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