第27話 グア戦とシュナプスイデー
「よォ、ノクス。いいご身分だなァ」
ローとノクスが会話を終えて少し経った頃に、燃え盛る少年が一人で顔を出した。
「なんでグアはこんなに悪意を放ってるの?」
「隊員失ってるのは置いておいて、あいつからしたら嫉妬の対象になるのもわかる。グアは俺を倒すことが目標だし、俺に教えを貰おうとした時もあった。ポッと出ですぐにスイの教えを受けて、さらには俺の教えも貰うなんて、グアは気に食わないだろうな。どうあれ俺は手を出さない。勿論、近接戦オンリーだ。頑張れ、ノクス」
「それは知ってた」
金色の髪がグアの放熱によって起きた風に揺られる。陽炎の先のグアを見て少し違和感を抱いた。
――グアの長所は熱量変換の効率と速度だったはず。なのになんで、無駄な熱を出してるの?
ともあれ、ローは近接戦を所望だ。ノクスは全速力でグアに近づいていく。
「わざわざ近づいてくるなんざァ、舐められたもんだなァ!」
グアは分かりやすく腕を振りかぶる。これから大技が放たれるような緊迫感にノクスは襲われた。その瞬間に、火災竜巻に見舞われる。
――腕は罠ッ! めちゃくちゃ熱い、けど、流石に対策済みだよ。
初見殺しはルフで経験済みだ。ある程度身体を結合強化していたおかげで熱い程度で済んだ。ノクスはそのまま、竜巻の中を走り抜ける。
竜巻から出た瞬間に顔に向かってくる第六感が発動した。即座に翼を生やして、体を包み結合強化。
グアの掌が翅の隙間から見えたときに、それでは足らないと思い、横に飛んで回避する。
翼は焼け溶けていた。ギリギリで回避したため、溶けてドロドロになった部分がボタボタと落ちる。
そして、グアの猛攻が始まった。『剣』の少年より速い攻撃である。熱量変換を高純度で速さに変換したものだ。
ノクスはグアの低重心からの足払いを跳躍で躱し、空中での手から放たれる火力放射を翼で受ける。しかしながら、ノクスは前方に吹き飛ばされた。
突如背中から襲ってきた害意に反対の翼でガードしたものの、当然空中だ。吹き飛ばされる。
――近距離なら具現化範囲内ね。
ルフも自身に触れていない水も操れていた。グアだって相手の後方から設置型の火炎放射を行った。それだけだった。
「そりァ、ローにも目ェ付けられてるんだ。第六感もあって然るべき。恵まれてんなァ! ノクス!」
未だ空中のノクスに、暴言を吐きながらグアが近づいてくる。
ノクスは全身に煮えたぎるような害意を感じる。
――第六感の撹乱。
ノクスは呼応して全身の結合強化をして迎え撃った。
グアから放たれる悪意が増してゆく。悪意が形を持って化け物が見える。
『生ける炎』が顕現しかかっている――。
その原因を察知したローがグアを貫いた。
「ロー?」
轟音と共に地面に青い烈火が刻まれている。
「シュナプスイデーだ。簡単なことだった。悪意が放たれている時から覚悟はしていたが、グアが使用者だったなんて信じたくはなかったな」
ノクスは貫かれたグアを見るが、リウムが見せてくれたような注射器は持っていなかった。
「でも、注射器は持ってないよ」
そこまで知っているノクスによって時間遡行を補足されて、ローは少し目を逸らす。
「薬は注射器で使用する。法律でも決まっているその固定概念にやられたな。相手はもとより法の外。チョーカーから注入されたと見るべきか」
ローはモノリス化するグアを捨てて熟考する。そして、ノクスのチョーカーに触れて、ネットからハッキングを行っていた。
「…………………」
そして、答えは出る。
「感情が一定以上に昂った時にチョーカーからシュナプスイデーは注入される。作ったやつはクソ野郎だな。これで悪意なしかよ!」
冷たい焔が憤怒を露わにする。時空を屈折させるほどの衝動がローの辺りを囲んでいた。
「どういうこと?」
「チョーカーからの除去はほぼ不可能だ。物質の生成は元よりチョーカーというかアニマニウムの機能。だから、誰しも勝手に覚醒させられる。俺とノクスのはすでに生成機能を破壊したが、他のチョーカーは話は別だ」
――それじゃ、スイ危ない。まさか、
「手遅れ……?」
「いやまだ、やりようなら、」
「ある」とローは言いたかった。害意に溢れた北部に佇む巨大な黄色い名状しがたいもの、『黄衣の王』。それを見てしまう前までは。
そしてノクスは、二回目の将校試験会場で見た怪物と同じものだと分かってしまう。冷酷にも本体はスイだ。
「スイ!」
「今度は、手遅れか」
殺さなければいけないというローの殺気に、ノクスは気づいて威嚇する。
「ロー!」
しかし、それは覚悟の殺気だ。ローとてスイを殺したくはない。
「わかっている。助ける方法を考えてるところだ」
「グアは大丈夫なのに、スイは殺さなきゃいけないの⁉︎」
「そうだ。完全に覚醒してしまったら最後、ナイトメアを殺さなければ、都市が終わる。覚醒の途中なら、七年前同様どうにかなったかもしれないが、今回はもう殺す以外の選択肢はない」
元帥の情報とローの言動が一致してしまった。魂の揺らぎから嘘はないことは分かっていたが、誤解という線も無くなってしまったことにノクスは絶望する。だって、ローは最強なのだから。
「見にいくぞ。認めたくはないが、ノクスが時間遡行をしている場合、現場の証拠は得難い価値のある情報だ」
ローが黄衣の王から目を離し、ノクスの方を振り返ると、泣きじゃくる子供の姿があった。
「記憶がないってことは普通にまだ子供だよな。弱冠13にして都市を守っていたら感覚も狂ってたか。……悪いノクス、でもな、お前のためにいくぞ」
ローはノクスを抱き抱えて、北部外壁のスイのところへ走ってゆく。
ローの懸念は最悪の当たり方をして、試験は現在を以って終了した。
参加者全員に終了を告げる鐘の音が届けられる。
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