第9話 大罪の解釈

 気持ちよく目を開けると、白色の天井に迎えられる。チョーカーが示す時間は六月五日七時七分。黄昏の刻を示す空の元だが、起きごろの時間である。

「あら、おはよう、ノクス」

 ノクスは重い瞼を擦りながら、スイの朝の挨拶に返事をする。

「おはよう、スイ」

 腕を十字にして上に向けて背伸びをする。ふわぁと大きなあくびをしてスイを見た。

 スイは今日の教材の最終確認をしている。黄昏の日差しによって金色に光る銀髪と睫毛まで赤く染める宝石のような眼がノクスを見た。

 ノクスがベッドの温もりが恋しいと思っているとスイから注意される。

「二度寝はダメよ。七つの大罪、怠惰。睡眠欲は最もだけれど、行き過ぎると不幸せになるのよ」

 「は〜い!」元気よく返事をして、ノクスはベッドから出る。

「七つの大罪って基本はいいものなの?」

「難しい質問ね。完全に受け売りだけれど、『』という考え方もできるのよ」

「ふむ?」と金色の毛玉は首を傾ける。

。これらは生物が野生で生きていくのに必要なものばかりなの。今じゃ野生なんて言葉自体が廃れていっているけれど。要は根本的に引き離せないものなのよね」

「なるほど?」とノクスの首の傾きの値が上がる。

「何事もバランスよくしましょうってこと。さあ、朝食を食べなさいな。ローみたいに食欲をそそられるようなものは用意できなかったのだけれどね」

 ノクスはスイの正面の席に座る。目の前には宇宙食のようなパックに包まれたゼリー状の飲み物だけがあった。

「これも食べ物なの?」

 ノクスの疑問はスイに刺さった。天空都市群では普通の食事は高価なのだ。人工で必要な分の栄養素が入っているパックを飲むので十分なのに加えて、それはオリジナルの肉体の人のみに必要なものだ。ホムンクルスに魂を移している人間には必要ない。

 スイの状況を簡単に言えば、ローの心遣いにあっけなく負けたのだ。

「そ、そうね。ちゃんとおいしくはあるのよ」

 ノクスはキャップを回して飲み口からゼリーを飲み込んでいく。ほんのり苺の香りを漂わせ、甘くて美味しいゼリーを堪能した。

「うん、ちゃんとおいしい!」

(ふふ。ちょっと失礼ね。いいけど)

 美少女?たちの笑顔が黄昏の空の上に広がっていた。



「とりあえずリアニマに対する感覚的で実践的なところはメモしておいたから見ておいて。あと……」

 チョーカーによって情報のやり取りがされるが、ノクスは最後の濁しの方が気になって頭を傾げる。

「今日会う二人、少しだけ気難しい子たちだから優しくしてあげてね」

「うん」

 ――誰がスイを不幸せにするか、確かめないと。それと、

「リアニマ使用時って熱が出るんだ」

 スイの教材を見ての疑問をぶつけた。

「生み出すエネルギーは完全にコントロールできるわけじゃなくて、一部は熱としていくのよね。応用もできるけど、まずは体外に放出することだけを目指すだけで良いわ」

 教材にはリアニマの起源やルインダーへの特効薬であることが素晴らしくまとまっているが、それは前世が教えてくれている。

「準備はできたかしら?」

 その言葉を合図に二人のパジャマは消失して、軍服が生成される。チョーカーの技術には驚きばかりさせられる、と思いながらノクスは外へと出た。

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